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    2024年5月18日 11時00分

    今中能夫【米国株ハイテク・ウォーズ】ビッグテック決算で見えてきた24年後半の投資戦略

    ◆ASML、TSMCショックはなぜ起きたのか

     AI相場の本命、エヌビディア<NVDA>など、いくつかの企業を残しているとはいえ、注目された米国ハイテク企業の2024年1-3月期決算が大方、出揃った。今回は各社決算を点検し、市場の反応と今後の事業の進捗について総括してみたい。

     まず、先陣を切った台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>の決算内容と市場の反応を振り返ってみると、「生成AI」が登場したことによって、市場が半導体セクターを見るための、根本的なスキームが変化していることを改めて証明した、と言えるのではないだろうか。

     生成AIが登場する22年までは、半導体セクターの景況感を推し量るためには、主に最先端ロジック半導体の進捗だけを見ていれば良かった。最先端ロジック半導体とは、具体的に言えばアップル<AAPL>のスマートフォン(以下、スマホ)、「iPhone」向けのCPU(中央演算処理装置)のことで、この分野の生産技術でトップのTSMCの業績を見れば、おおよその半導体市況の勢いが分かったのだ。

     ところが23年以降は、市場の関心がスマホから生成AIにシフトした。そして、生成AIに必要なAI半導体を生産するには、CPUよりもGPU(画像処理半導体)やHBM(広帯域メモリー)が重要だということが分かってきた。AIの時代になって、ロジックとメモリーの両方を見なければ半導体製造の全体像を把握することができなくなったのだ。

     そんな中で発表されたTSMCの決算だったが、業績こそ堅調だったが、同社は今年の半導体市場の成長見通しを引き下げた。生成AIブームで期待が高まっていただけに、この結果は米国株市場全体にもちょっとしたショックを与えた。だが、実際にはそこまで悲観する内容ではない。

     TSMCは最先端の3nm(ナノメートル)半導体の売上高が前四半期比で減収となったが、その半面、5nm、7nm半導体は小幅ながら増収となった。AI半導体は、現時点では最先端の半導体ではなく、ひと世代前のノードの半導体が使われているが、それがこの結果に反映されていると見ていい。その後、5月10日に4月の同社の月次売上高が前年同月比で59.6%増になったと発表されたが、この数字ならAI半導体がすでに増産に入っていると考えていいだろう。

     またASML<ASML>については、EUV(極端紫外線)露光装置の受注高は22年4-6月期の54億ユーロをピークとして減少が続いていたが、23年10-12月期にいきなり過去最高の受注高56億ユーロを記録した。ところが、24年1-3月期は過去最低水準の6億ユーロに急減している。ASMLの決算はTSMCよりも1日早く発表があったため、これは半導体設備投資、特に先端ロジック向け設備投資に何事かあったのかという疑念を呼んだと思われる。

     だが、東京エレクトロン <8035> やレーザーテック <6920>、ディスコ <6146>など他の半導体製造装置メーカーの決算状況を見ると、ASMLのEUV露光装置の需要自体が落ちているとは考えづらい。ASMLのEUV露光装置の顧客は大口客がTSMC、サムスン電子、インテル<INTC>の3社、最近はメモリー大手のサムスン電子メモリー部門、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー<MU>の3社が少量ながら先端DRAMの生産ラインにEUV露光装置を導入している。

     要するに、EUV露光装置は単価が高いため(円換算すると現行機で1台200億円以上、次世代機では300億円以上になると言われている)、特定顧客の発注によって四半期受注高が大きく振れるのであろう。ちなみに、EUV露光装置のメモリー向けは、先端ロジック向けほどの規模にはならないものの、一定の規模にはなると思われる。

    ◆インテルとAMDの起死回生はあるのか?

     ところで、4月半ばにASMLの最先端EUV露光装置の導入が発表されたインテルはどう見ればいいだろうか。この装置は「High NA」と呼ばれるハイエンドの技術を取り入れた装置で、これを使えば2nm以下の半導体露光ができるようになる。これを、TSMCやサムスン電子に先駆けて導入したのだ。

     同社は半導体の微細化でライバル2社に大きく立ち遅れたが、21年に就任したパット・ゲルシンガーCEOは、その遅れを取り戻すため、27年に1.4nmの半導体量産化を目指し、アメリカ政府の国内半導体支援策、「CHIPS法」の後押しもあって積極的に投資を進めている。だが、この発表後も株価の下落は止まらなかった。なぜなのだろうか。

     はっきり言って、市場の見方は、インテルがTSMCに追いつき、27年に最先端半導体の量産化をスタートするのは「まず無理だ」と捉えていると思われる。同社の株価は、24年1-3月期が赤字決算になったこともあって下げ止まらず、すでに年初来30%超下げているが、投資家たちは、同社の将来にはもう期待できない、と考えているのではないだろうか。

     一方、昨年後半からエヌビディアを追ってAI半導体に力を入れているAMDも冴えない決算内容だった。AI半導体の本命はサーバー向けである。ただし、AMDは従来型サーバー向けCPUの売上高が大きく、データセンターの多くが投資の主軸をAIサーバーに置いているため、従来型サーバーの伸びが鈍くなっている。AI半導体の伸びだけではデータセンター向けの高成長が難しい。AI半導体の事業が十分大きくなってデータセンター向けを牽引するにはもう少し時間が必要だろう。

     PC向けのAI半導体も相応に伸びてはいくだろうが、せいぜい年率10%強の成長率で、高い成長は難しいのではないか。しかもAI半導体以外の分野、ゲーミング部門がソニー<6758>の「PS(プレイステーション)5」やマイクロソフト<MSFT>の「Xbox」のピークアウトもあって業績が悪化しているし、22年に買収したロジック半導体大手のザイリンクスがコロナ禍で積み増した在庫の整理を行っているため、これも業績が悪化している。

    ◆マイクロソフトとアマゾン、AIクラウドの覇権を握るのは?

     次に生成AIの開発競争が繰り広げられるビッグテック各社の決算内容を見ていこう。AIブームの先駆け、マイクロソフトの24年6月期第3四半期決算は、やはり期待通り、順調な結果だった。前期の伸びから比べると、やや落ち着いてきた感があるが、世界第2位のクラウドサービス、「アジュール(Azure)」の売上高が前年同期比31%増と好調で、そのうちの7%がAIによる増加分だという。

     背景には、企業がオンプレミス(自社でシステムを構築すること)からクラウドへと移行していることがある。というのも企業が生成AIを導入しようとした場合、AIサーバーの需要がひっ迫しているために、現時点では大手のクラウドサービスを利用するしかないからだ。実際、AIサーバー最大手のスーパー・マイクロ・コンピューター<SMCI>の決算を見ると、ようやく企業向けにAIサーバーの出荷が始まったばかりだという。

     だからマイクロソフトもクラウド部門が伸びている半面、法人向けソフト部門の伸びは鈍化している。とは言え、今後、企業への導入も確実に進んでいくだろうから、中長期的にはこの部門の成長も期待できるだろう。

     クラウド首位のアマゾン・ドット・コム<AMZN>も業績は絶好調だ。この1年半、コロナ禍での需要拡大の反動によって企業のIT投資がダウンサイズした影響で、同社のクラウドサービス、AWSの成長鈍化が続いていたが、ようやく底打ちした。さらにAWS上で展開する生成AIサービス「アマゾン ベッドロック」が好評だという。

     アマゾンとマイクロソフトは、クラウドサービスのトップ2だが、提供するAIサービスの内容は対照的だ。マイクロソフトはあくまでもソフト会社なので、自社の製品、「コパイロット」を提供しようとするが、「アマゾン ベッドロック」では、自社のクラウド・ネットワーク上で各社の生成AIを集めて、自由にAI開発ができるようにした。この姿勢が開発者から高い評価を受けているのだ。

     マイクロソフトがリードして始まった生成AIだが、ひょっとしたら今後、ある時点でアマゾンがキャッチアップする可能性も大いにあるのではないだろうか。例えば、生成AIによる画像生成では、現時点ではオープンAIが開発してマイクロソフトが提供している「GPT-4」を使うケースが多いが、クリエイターによってはアドビ<ADBE>の生成AIを使いたいと思うかもしれない。動画の生成では「ステープル・ディフュ―ジョン」も人気がある。さらに昨年一年間で、AIのスタートアップが続々と誕生している。AI開発者のニーズは多様で、AWSではアマゾン製生成AIにこだわっていないようなので、「アマゾン ベッドロック」に採用されている生成AIであれば、各種の生成AIを自由に使うことができる。

    ◆「iPhone」の限界が露呈したアップルの株価はなぜ下がらないのか?

     GAFAMの中では、メタ・プラットフォームズ<META>の決算内容も良かった。発表後、売り込まれたが、これは一連の“詐欺広告”がネガティブ視されたためだ。ただし、同社の基礎的な収益力は、やはり侮れない。彼らが取り組むAI戦略は、まず、全世界で32億人に及ぶSNS会員たちに向けた広告を制作している広告業者に、メタの生成AIを使って広告をつくってもらおうというものだ。次いで、32億人に向けたネット通販などのビジネスをしている事業者や、32億人の会員に生成AIを使ってもらおうともしている。他社と比べてAIの用途が明確なのだ。したがって同社に関しては、長期投資で“買い”のスタンスでいいだろう。

     アルファベット<GOOG>は、グーグル広告の売上高がメタやアマゾンの広告事業に比べ低い伸びになっているが、堅調には推移している。加えて同社製の生成AI、「ジェミニ(Gemini)」も、スタート時こそ誤回答などでつまずいたが、開発担当者からの評価は高く、グーグル・クラウド事業に対する収益貢献が出ている。投資対象として見た場合、今後のポテンシャルはあると見ていいだろう。

     最後に残るGAFAMの1社、アップル<AAPL>についてだが、残念ながら今回の決算内容を見る限り、今のところは期待が持てない。ご存じの通り、アップルは昨年9月に新型iPhoneを発表したばかりで、本来なら今期は売上高がもっと伸びてもいいはずなのだが、全く伸びていない。最も深刻なのは、アメリカ市場がほとんど伸びていないことだ。これは、アメリカ人がアップル製品にブランドを感じなくなっている、ということではないか。

     背景には、スマホという製品の普及率が充足していることもあるだろう。スマホは現時点でも、地球の人口約80億人のうち、50億人から60億人に行き渡っていると言われている。そんな中でアップルは、今秋に最先端の3nmチップを搭載した、より高性能の新型iPhoneを発売すると思われるが、これが売れるかどうかが注目点になろう。

     そんなアップルだが、株価は大きく下落していない。この理由として考えられるのは、アップルの生成AI戦略である。アップルは生成AIでははっきりと出遅れた。今のところ具体的な生成AI戦略も公表していない。ただし、あのアップルであるから、生成AIで何か凄いことをやるのではないか。そういう期待が株価に反映されていると思われる。

     では、今後のアップルをどう考えればよいか。長期的に見れば、アップルがこのまま沈んでしまうとは多くの人が思っていないだろう。だが、私個人の見解だが、その危険もあると思っている。と言うのも、GAFAM他社とは違って、同社だけは基本的にはハードの会社だからだ。ハードはソフトと違ってヒットを出し続けることが難しく、ヒットしなくなったときに立て直すことも難しい。やはり復活のカギを握るのは、AIだろう。アップルがAI用半導体を開発中という報道がある。また、6月の開発者会議で生成AIについて何らかの発表があるかもしれない。もっとも、こればかりは結果を見てみないとなんとも言えない。

    ◆エヌビディア決算で注目すべきはこの一点

     ともあれ、米国ハイテク株の今後を占うには、まず5月22日のエヌビディアの決算を注視すべきだろう。3月のテック・カンファレンスでジェイスン・フアンが語った、「シミュレーション」を用途としたビジネスが着実に進捗しているのかどうか。彼が示したスキームが実現するのだとしたら、AIはさらに大きなイノベーションを生み、同社の成長も加速するだろう。自動車はもちろん、航空・宇宙、医療やバイオテクノロジーなど、全ての製造業の生産性を高める画期的なイノベーションだからだ。

     同社の株価を見ると、そうしたAIの未来像に対して、まだマーケットはピンと来ていないのではないだろうか。もちろん、背景にはアメリカの金利の問題もある。これまでの半年間は、金利が高止まりしながらも、AIブームによってハイテク株に資金が集まっていたが、さすがに投資家にとっても、現在の金利水準が続けばリスクは高まる。

     もっとも、最近ではアメリカの金利低下期待が出てきたため、エヌビディアを始めとした大型ハイテク株の株価上昇余地も出てきたのではないか。このような状況の中で同社の決算を見る場合には、業績数字はもちろんだか、フアンCEOの発言の隅々を慎重に総合的に検討したい。



    【著者】
    今中能夫(いまなか・やすお)
    楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

    1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。


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