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    2023年7月11日 19時30分

    買いの好機!「優良地銀株」攻略の夏、カギ握る日銀のYCC修正観測 <株探トップ特集>

    ―貸出需要増加で事業環境も好転の兆し、低PBRセクターで株主還元余地―

     中期的な成長が見込める地銀株への投資妙味が強まりつつある。物価高や人手不足で地方の中小企業の経営環境は厳しさを増しているものの、大企業や中堅企業の設備投資意欲は旺盛な状況にあり、地方銀行にとって貸出需要の拡大が見込まれている。低PBR(株価純資産倍率)セクターで株主還元の余地が意識されるほか、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール)の修正を巡る思惑も強まっており、利ザヤ改善による収益期待が膨らんでいる。

    ●6月日銀短観で見直し機運強まる

     7月3日に公表された日銀の全国企業短期経済観測調査(日銀短観、6月調査)によると、製造業のうち大企業と中堅企業の設備投資計画は前年度比で2割近い増加となった。国内では人手不足に苦しむ企業が多く、生産の効率化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)化などへの投資活動が一段と活発化すると予想されている。

     その追い風が吹くのは機械メーカーやDX関連企業だけではない。地銀にとって企業向けの貸出需要の拡大は、調達した資金を運用に回すことで受け取る資金利益の増加を伴って、収益拡大に貢献することとなる。

     更に、7月7日発表の5月の毎月勤労統計で国内賃金の上昇が顕著となったことを背景に、市場ではYCCの修正観測が一気に広がり、長期金利に強い上昇圧力が掛かった。日銀が長期金利変動幅の上限を拡大し、国内金利に一段の上昇余地が生まれれば、貸出金利の上昇を通じて銀行の利ザヤ改善につながると考えられている。

    ●YCC解除後は本業のモメンタムで選別へ

     もっとも、YCCの解除を当てにした地銀株投資は、金融政策が現状維持となった際に、はしごを外されるリスクがある。そもそも潜在成長率の低い国の長期金利が2%や3%に向かって上昇を続けるシナリオは想定しにくい。YCC解除後の長期金利の一時的な上昇が一服した後は、業績拡大が見込める銘柄に資金が集まる展開となりそうだ。

     地銀といっても今期は増益を見込むところもあれば、減益を予想するところもある。増益を計画する地銀には、海外金利の上昇(債券価格の下落)を受けた外国債券の評価損の計上を前期に済ませているところが多く、一過性の要因を加味したうえで今期の業績予想を評価する必要がある。また、コロナ禍を経て実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)に伴う貸出金が積み上がり、貸し倒れリスクの顕在化が懸念される点にも留意しなければならない。東京商工リサーチによると、負債1000万円未満の企業倒産は2023年1-6月は244件と、上半期では3年ぶりに前年を上回った。今後は経営体力の乏しい地銀と、リスク耐性を高めてきた地銀の二極化が一段と進みそうだ。

     収益基盤の強化に積極的に動いてきたかどうかというのも、来期以降の成長性を計るうえで重要なポイントとなるだろう。21年の銀行法の改正により国内銀行は、設立した子会社が「銀行業高度化等会社」の認可を受けることで、幅広い業種に参入することが可能になった。金融以外の事業を持つことは、ソリューション力の強化と本業の拡大という大きな果実をもたらすと期待されている。

    ●七十七はヘルスケア・ITで新会社、3期連続最高益へ

     東北最大の地銀である七十七銀行 <8341> [東証P]は今年4月、医療・介護事業者へのソリューション提供を目的に、地域特化型のヘルスケアファンドの運営会社を芙蓉総合リース <8424> [東証P]などと設立した。人手不足や施設の老朽化など、さまざまな経営課題を抱える事業者に対し、金融サービスや経営コンサルティングとともに、芙蓉リースが提供するヘルスケア関連商品も掛け合わせ、地元企業の経営基盤の強化につなげる。7月10日には、地元企業のデジタル化を支援する七十七デジタルソリューションズの開業も発表した。

     七十七は今期の経常利益を前期比2.0%増の365億円と、3期連続の最高益を計画する。宮城県における事業性貸出(平残)は前期比8%増を想定。有価証券の利息配当金とともに貸出金の利息の増加も、収益を押し上げる要因となる。

     長野県の八十二銀行 <8359> [東証P]は今年3月、DX推進事業を展開するBTM <5247> [東証G]との協業開始を発表した。地元企業のDXニーズの拡大に対応し、課題解決を通じて本業の拡大につなげる構えだ。今期は純利益で前期比4.7%減の230億円を計画するものの、6月の長野銀行との経営統合を受け、市場では「負ののれん」益が300億円前後発生するとの指摘がある。連結配当性向を40%以上とする目標を掲げているとあって、業績と配当予想の上方修正が期待されている。

     山口銀行と広島県のもみじ銀行、福岡県の北九州銀行を傘下に持つ山口フィナンシャルグループ <8418> [東証P]は、事業承継を求める企業と経営者人材を結ぶ「サーチファンド」という取り組みを国内で初めて開始した地銀だ。19年2月の1号ファンド設立以降、7社の事業承継を実現するなど実績を構築した。今年6月には東京にストラクチャードファイナンス室を新設。通常の融資よりも高い金利が期待でき、手数料収入も見込める同ファイナンスの案件獲得を目指し、収益力強化にアクセルを踏む。今期の経常益は前期比36.2%増の350億円と大幅増益を計画する山口FGだが、日銀がマイナス金利を解除し、YCCの金利変動目標の上限がプラス1%になった場合、円貨ベースの貸出金利息は年30億円程度増加するとしている。

    ●商圏拡大の山陰合銀、PFIの百五銀なども要マーク

     山陰地方を地盤とする山陰合同銀行 <8381> [東証P]は、今期最終利益を前期比3.4%増の160億円と、3期連続の最高益を見込む。山陽や近畿地方への営業攻勢を強めており、預金と貸出金の伸び率は地銀のなかでもトップレベル。OHR(本業の粗利益に対する経費率)は前期末時点で53%台と、他行に比べ低水準で、効率性の高さを裏付けている。地銀として初めて電力事業に参入するなど、収益基盤の多様化を進めている。

     三重県の百五銀行 <8368> [東証P]も、今期は最終利益で過去最高を予想する。隣県の愛知県で拠点新設と人員増強を進め、住宅ローンの獲得増を目指すなど、攻めの姿勢が顕著となっている。更に目を引くのがPFI(民間資金を活用した社会資本整備)向けのプロジェクトファイナンスの実績だ。23年3月期における融資引受累計額は955億円と、地銀ではトップクラス。昨年は、名古屋市の瑞穂公園陸上競技場などの整備を進める特別目的会社に対し、同行がアレンジャーとなって、ゆうちょ銀行 <7182> [東証P]やあいちフィナンシャルグループ <7389> [東証P]傘下の愛知銀行などとともに108億円の融資を実施した。同ファイナンスに関しては全国レベルで引き合いがあるという。

    ●「ラピダス」効果も注視

     熊本県では台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>による半導体工場が建設されているが、同県を地盤とする肥後銀行と鹿児島銀行の統合により誕生した九州フィナンシャルグループ <7180> [東証P]と、熊本銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ <8354> [東証P]は、ともに今期経常利益が過去最高になる見通しだ。TSMCは熊本県での第2工場の建設を検討していると報じられており、ヒト・モノ・カネの集積は両社の収益を一段と拡大させる可能性が高い。

     北海道では先端半導体の量産に向けて、ラピダス(東京都千代田区)が新工場を建設する予定だ。北陸銀行と北海道銀行の広域連合であるほくほくフィナンシャルグループ <8377> [東証P]や、北洋銀行 <8524> [東証P]の業績にも浮揚力が高まっている状況と言える。

     このほか、石川県を地盤とする北國フィナンシャルホールディングス <7381> [東証P]にも、投資家の関心が向かっている。北国FHDは傘下の投資会社を通じ、岩手銀行 <8345> [東証P]や武蔵野銀行 <8336> [東証P]、琉球銀行 <8399> [東証P]などに出資している。投資活動の一環として株式を取得したとみられているものの、広域的な地銀連合の形成に向かうのかどうか、注視しておきたい。

    株探ニュース