2024年2月16日 19時30分
日経平均株価が最高値接近、異彩高の「因数分解」で浮かぶシナリオ <株探トップ特集>
―大型株主導で年始から5000円高、AI・半導体ブームの陰で出遅れる中小型株―
16日の東京株式市場で日経平均株価の上げ幅は一時700円を超え、1989年12月29日につけた終値ベースでの最高値3万8915円87銭にあと50円程度まで迫った。短期の過熱感が意識されるなか朝高後に上げ幅を縮小しながらも、午後に再び騰勢を強める場面があり、プライム市場の売買代金は概算で6兆7212億円に上った。「万年強気」の兜町も舌を巻くほどの頑強な相場となっており、最高値更新は時間の問題との見方が多い。歴史的な株高はどこまで続くのか。年始からの株高要因を整理し、ヒントを探る。
●AI・半導体ブームで見直される日本株
16日の日経平均株価は前日比329円30銭高の3万8487円24銭で取引を終えた。前年末の水準でみると上昇幅は5000円を超え、上昇率は約15%と米国のダウ工業株30種平均の上昇率(約2.9%)を上回る。しかし、米国株もダウは過去最高値の更新を繰り返しており、決して上値が重いわけではない。生成AIの普及によりGPU(画像処理用半導体)の急速な需要増が見込まれているエヌビディア<NVDA>は年初来で約47%高と上昇が際立っており、AI・半導体ブームの様相を呈している。
ソフトバンクグループ <9984> [東証P]傘下にある英半導体設計アーム・ホールディングス<ARM>も、こうしたブームの勢いを後押ししている。同社は米国時間7日夕の決算発表にあわせて1株利益の見通しを引き上げ、成長性の高さを投資家に印象付けた。アーム株の急騰を受けて買いが集まったソフトバンクG株は1月末の水準から一時37%高と、直近の日経平均株価を大きく押し上げる役割を担った。半導体製造装置の東京エレクトロン <8035> [東証P]の存在も忘れてはなるまい。2月9日に今期の業績と配当予想の増額を発表。その後株価は高値を更新し、同社をカバーするアナリストは相次いで目標株価を引き上げた。
最終製品としての半導体は海外メーカーの牙城となっている。だが、半導体製造工程で用いられる装置や特殊な材料は、なお日本企業が強みを持つ分野である。逆にいえば、日本企業の存在なしには、AI時代に求められる半導体は賄えない。こうした観点から日本株に資金を振り分けることを決めた海外投資家も存在するようだ。
●トヨタ決算も強気心理に拍車
トヨタ自動車 <7203> [東証P]の決算発表後の株高の勢いも、投資家に強い印象を与えるものとなった。同社は2月6日、24年3月期の最終利益の見通しを3兆9500億円から4兆5000億円(前期比83.6%増)へと過去最高益計画を上乗せする形で上方修正した。機能向上を伴った値上げや原価低減の効果が利益を押し上げ、ハイブリッド車(HV)の販売も大きく伸長。来期以降の収益拡大への期待を高める内容だった。
トヨタの昨年末比での株価上昇率は30%を超え、時価総額は50兆円台と日本の株式市場の歴史のなかで最大となった。円ベースで韓国のサムスン電子の時価総額を約7年半ぶりに上回ったことも話題となっている。日本を代表する企業の利益創出力が実績として示されている点は、長年、海外投資家を中心に過小評価されてきた日本株のバリュエーションの切り上げに大きく寄与すると受け止められている。
●政策保有株縮減も加速中
トヨタグループでは政策保有株の縮減に向けた取り組みが加速しているが、これは日本企業全体としてのトレンドだ。足もとでは金融庁が損保各社に政策保有株の売却を要求したことが明らかとなり、東京海上ホールディングス <8766> [東証P]やMS&ADインシュアランスグループホールディングス <8725> [東証P]などの株価に強い上昇圧力が掛かっている。今回の損保のケースは企業向け保険料の事前調整問題に端を発したものではあるが、東証が低PBR(株価純資産倍率)企業に対し是正を求めて資本効率の向上を働きかける潮流にあって、海外投資家による日本株への評価を高める要素となった。
東証株価指数(TOPIX)の年始からの上昇率は約11%と日経平均よりは低いが、着実に水準を切り上げているのは確かだ。「80年代後半のバブル期は日本人による日本人だけの相場だったが、今はそうではない。日本企業全体のROE(自己資本利益率)の底上げが期待されるなか、海外投資家もグローバルにみて日本株を保有対象に含まなければならない状況となっている」(アイザワ証券投資顧問部ファンドマネージャーの三井郁男氏)との声がある。
東京証券取引所と大阪取引所がまとめた投資部門別売買動向によると、1月4日~2月2日の約1カ月間、海外投資家による日本株の買い越し額は、現物・先物で合計約8900億円となった。現物株だけでみると約2兆700億円と、最大の買い手となっている。ソフトバンクGとトヨタが決算を発表し、株価が大きく動いた2月5日~9日の週では、海外投資家は現物で約3700億円、現物と先物の合計で約8200億円買い越した。主要企業の決算発表が海外投資家の買いを誘う要因となったと考えられている。
●調整局面の押し目買いは有効か
こうした強気相場に死角はないのか。短期的には、米国時間21日夕に予定されているエヌビディアの決算発表後の株価反応が試金石となる可能性がある。同社株を巡ってはすでに急激な変動に備えたオプション取引が活発化しているようだ。半導体株へのロングポジションの巻き戻しによる全体相場への影響も警戒されている。
もう一つ、短期調整リスクを考慮するうえで目配りをしておきたいのが、1ドル=150円台と円安基調で推移する為替相場である。直近の円安基調には、低金利環境の円を調達し、利回りの高いアセットに投資をする「円キャリー取引」の存在が大きいとみられている。調達した円を日本の商社株など配当利回りの高い銘柄に投資する手法は、バフェット流キャリートレードとも呼ばれており、少なからず日本株の水準訂正に寄与したと考えられている。
セゾン投信の瀬下哲雄・マルチマネージャー運用部長は「円キャリー取引は金利差の存在とともに、市場が安定した状態にあるという2つの条件が前提となる。ちょっとしたきっかけで市場の安定が失われた際には円買いへの巻き戻しが引き起こされ、米国株よりも日本株は深い調整となるリスクがある」と話す。米商業用不動産ローンの問題が今以上に拡大し、金融システムを揺るがせる事態に発展すれば、市場の安定性が損なわれる恐れもある。
一方、長期的な視点に立てば、米国株も日本株も2008年秋のリーマン・ショック以降は上昇トレンドを継続している。15年のチャイナショックや20年のパンデミック発生時も、各国政府・中央銀行は財政出動やマーケットに対する流動性供給措置など緊急対応を推し進め、調整局面の短期化に成功し続けてきた。セーフティーネットが張られた株式市場において、クライシスがあっても政府・中銀の危機対応により、一時的なものにとどまるといった淡い感覚が投資家の間に広がっているのは事実だろう。
●強まる中小型株の出遅れ感
今回の相場が大型株主導で上昇したという事実そのものも、見方を変えれば好機となる。物色対象が大型株以外に広がれば、全体相場に対して出遅れ感の強い中小型株の水準修正の流れが期待できるためだ。
三木証券の商品部投資情報課次長・北澤淳氏は、ミルボン <4919> [東証P]とソラスト <6197> [東証P]に注目する。ともに2月に昨年来安値をつけた銘柄だが、ミルボンに関しては「24年12月期はドライヤー関連での一過性のマイナスの影響がなくなるなか、ヘアケア製品が堅調に推移し海外の開拓も順調に進む見通しだ」という。ソラストについても医療事務受託事業から生まれるキャッシュを活用した中期的な成長が期待できるとの見方を示す。
ほかにも、国土強靱化や親子上場解消といったテーマに関連した中小型株や、好業績期待株に対しては、選別物色による株価上昇シナリオが横たわった状態にあると言えるだろう。指数の激しい動きからいったん、冷静になってミクロとマクロを俯瞰する――。そうした姿勢こそ、投資リターンの最大化につながるに違いない。
株探ニュース
16日の東京株式市場で日経平均株価の上げ幅は一時700円を超え、1989年12月29日につけた終値ベースでの最高値3万8915円87銭にあと50円程度まで迫った。短期の過熱感が意識されるなか朝高後に上げ幅を縮小しながらも、午後に再び騰勢を強める場面があり、プライム市場の売買代金は概算で6兆7212億円に上った。「万年強気」の兜町も舌を巻くほどの頑強な相場となっており、最高値更新は時間の問題との見方が多い。歴史的な株高はどこまで続くのか。年始からの株高要因を整理し、ヒントを探る。
●AI・半導体ブームで見直される日本株
16日の日経平均株価は前日比329円30銭高の3万8487円24銭で取引を終えた。前年末の水準でみると上昇幅は5000円を超え、上昇率は約15%と米国のダウ工業株30種平均の上昇率(約2.9%)を上回る。しかし、米国株もダウは過去最高値の更新を繰り返しており、決して上値が重いわけではない。生成AIの普及によりGPU(画像処理用半導体)の急速な需要増が見込まれているエヌビディア<NVDA>は年初来で約47%高と上昇が際立っており、AI・半導体ブームの様相を呈している。
ソフトバンクグループ <9984> [東証P]傘下にある英半導体設計アーム・ホールディングス<ARM>も、こうしたブームの勢いを後押ししている。同社は米国時間7日夕の決算発表にあわせて1株利益の見通しを引き上げ、成長性の高さを投資家に印象付けた。アーム株の急騰を受けて買いが集まったソフトバンクG株は1月末の水準から一時37%高と、直近の日経平均株価を大きく押し上げる役割を担った。半導体製造装置の東京エレクトロン <8035> [東証P]の存在も忘れてはなるまい。2月9日に今期の業績と配当予想の増額を発表。その後株価は高値を更新し、同社をカバーするアナリストは相次いで目標株価を引き上げた。
最終製品としての半導体は海外メーカーの牙城となっている。だが、半導体製造工程で用いられる装置や特殊な材料は、なお日本企業が強みを持つ分野である。逆にいえば、日本企業の存在なしには、AI時代に求められる半導体は賄えない。こうした観点から日本株に資金を振り分けることを決めた海外投資家も存在するようだ。
●トヨタ決算も強気心理に拍車
トヨタ自動車 <7203> [東証P]の決算発表後の株高の勢いも、投資家に強い印象を与えるものとなった。同社は2月6日、24年3月期の最終利益の見通しを3兆9500億円から4兆5000億円(前期比83.6%増)へと過去最高益計画を上乗せする形で上方修正した。機能向上を伴った値上げや原価低減の効果が利益を押し上げ、ハイブリッド車(HV)の販売も大きく伸長。来期以降の収益拡大への期待を高める内容だった。
トヨタの昨年末比での株価上昇率は30%を超え、時価総額は50兆円台と日本の株式市場の歴史のなかで最大となった。円ベースで韓国のサムスン電子の時価総額を約7年半ぶりに上回ったことも話題となっている。日本を代表する企業の利益創出力が実績として示されている点は、長年、海外投資家を中心に過小評価されてきた日本株のバリュエーションの切り上げに大きく寄与すると受け止められている。
●政策保有株縮減も加速中
トヨタグループでは政策保有株の縮減に向けた取り組みが加速しているが、これは日本企業全体としてのトレンドだ。足もとでは金融庁が損保各社に政策保有株の売却を要求したことが明らかとなり、東京海上ホールディングス <8766> [東証P]やMS&ADインシュアランスグループホールディングス <8725> [東証P]などの株価に強い上昇圧力が掛かっている。今回の損保のケースは企業向け保険料の事前調整問題に端を発したものではあるが、東証が低PBR(株価純資産倍率)企業に対し是正を求めて資本効率の向上を働きかける潮流にあって、海外投資家による日本株への評価を高める要素となった。
東証株価指数(TOPIX)の年始からの上昇率は約11%と日経平均よりは低いが、着実に水準を切り上げているのは確かだ。「80年代後半のバブル期は日本人による日本人だけの相場だったが、今はそうではない。日本企業全体のROE(自己資本利益率)の底上げが期待されるなか、海外投資家もグローバルにみて日本株を保有対象に含まなければならない状況となっている」(アイザワ証券投資顧問部ファンドマネージャーの三井郁男氏)との声がある。
東京証券取引所と大阪取引所がまとめた投資部門別売買動向によると、1月4日~2月2日の約1カ月間、海外投資家による日本株の買い越し額は、現物・先物で合計約8900億円となった。現物株だけでみると約2兆700億円と、最大の買い手となっている。ソフトバンクGとトヨタが決算を発表し、株価が大きく動いた2月5日~9日の週では、海外投資家は現物で約3700億円、現物と先物の合計で約8200億円買い越した。主要企業の決算発表が海外投資家の買いを誘う要因となったと考えられている。
●調整局面の押し目買いは有効か
こうした強気相場に死角はないのか。短期的には、米国時間21日夕に予定されているエヌビディアの決算発表後の株価反応が試金石となる可能性がある。同社株を巡ってはすでに急激な変動に備えたオプション取引が活発化しているようだ。半導体株へのロングポジションの巻き戻しによる全体相場への影響も警戒されている。
もう一つ、短期調整リスクを考慮するうえで目配りをしておきたいのが、1ドル=150円台と円安基調で推移する為替相場である。直近の円安基調には、低金利環境の円を調達し、利回りの高いアセットに投資をする「円キャリー取引」の存在が大きいとみられている。調達した円を日本の商社株など配当利回りの高い銘柄に投資する手法は、バフェット流キャリートレードとも呼ばれており、少なからず日本株の水準訂正に寄与したと考えられている。
セゾン投信の瀬下哲雄・マルチマネージャー運用部長は「円キャリー取引は金利差の存在とともに、市場が安定した状態にあるという2つの条件が前提となる。ちょっとしたきっかけで市場の安定が失われた際には円買いへの巻き戻しが引き起こされ、米国株よりも日本株は深い調整となるリスクがある」と話す。米商業用不動産ローンの問題が今以上に拡大し、金融システムを揺るがせる事態に発展すれば、市場の安定性が損なわれる恐れもある。
一方、長期的な視点に立てば、米国株も日本株も2008年秋のリーマン・ショック以降は上昇トレンドを継続している。15年のチャイナショックや20年のパンデミック発生時も、各国政府・中央銀行は財政出動やマーケットに対する流動性供給措置など緊急対応を推し進め、調整局面の短期化に成功し続けてきた。セーフティーネットが張られた株式市場において、クライシスがあっても政府・中銀の危機対応により、一時的なものにとどまるといった淡い感覚が投資家の間に広がっているのは事実だろう。
●強まる中小型株の出遅れ感
今回の相場が大型株主導で上昇したという事実そのものも、見方を変えれば好機となる。物色対象が大型株以外に広がれば、全体相場に対して出遅れ感の強い中小型株の水準修正の流れが期待できるためだ。
三木証券の商品部投資情報課次長・北澤淳氏は、ミルボン <4919> [東証P]とソラスト <6197> [東証P]に注目する。ともに2月に昨年来安値をつけた銘柄だが、ミルボンに関しては「24年12月期はドライヤー関連での一過性のマイナスの影響がなくなるなか、ヘアケア製品が堅調に推移し海外の開拓も順調に進む見通しだ」という。ソラストについても医療事務受託事業から生まれるキャッシュを活用した中期的な成長が期待できるとの見方を示す。
ほかにも、国土強靱化や親子上場解消といったテーマに関連した中小型株や、好業績期待株に対しては、選別物色による株価上昇シナリオが横たわった状態にあると言えるだろう。指数の激しい動きからいったん、冷静になってミクロとマクロを俯瞰する――。そうした姿勢こそ、投資リターンの最大化につながるに違いない。
株探ニュース