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    2023年12月11日 13時30分

    デリバティブを奏でる男たち【68】 アッベン後のバリューアクト(前編)


     今回はアクティビストとして日本でも活躍しているバリューアクト・キャピタル・マネジメントを取り上げます。バリューアクトは2023年11月16日、リクルートホールディングス <6098> [東証P]の株式1800万株超(発行済み株式数の1%強)を取得したと発表。バリューアクトは、求人検索のインディードなどを傘下に擁するリクルートの資産は「既に現在の株価の2倍の価値がある」と主張しました。およそ2カ月間の調整を経て本格反転をうかがっていたリクルートの株価は、この発表で上昇に弾みを付け年初来高値を更新しています。

    リクルートホールディングス <6098>週足
    【タイトル】

    ◆創業者の経歴

     運用資産150億ドルとアクティビストのなかでも有数の規模を誇っているバリューアクトは、2000年にジェフリー・ウィリアムズ・アッベン(Jeffrey Ubben)が共同設立した会社です。アッベンは米名門私立大学のデューク大学を卒業。1987年に超名門大学のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で経営管理の修士号を取得しました。同大学卒業後は大手資産運用会社フィデリティ・インベストメンツで、ポートフォリオ・マネージャーやリサーチ・アナリストなど様々な役職を歴任します。このとき彼は伝説的な投資家であるピーター・リンチに師事し、業界構造を徹底的に調べて優位性を見いだす新しいアイデアに出会い、投資先への電話取材などを通じて粘り強く話し合うことを学びました。

     1990年にリンチが引退した後、外食産業のアナリストとして働いていたアッベンは、当時のレストラン株IPOブームに参加しなかったことを理由に、ポートフォリオ・マネージャーから非難されます。しかし、IPOブームに乗ることは彼にとって投資ではなく、単なる愚かな紙上のゲームに過ぎませんでした。アッベンは1995年にフィデリティを辞め、戦略的ブロック投資を行うブルーム・キャピタル・パートナーズで、マネージング・パートナーとして働きます。

     戦略的ブロック投資とは、割安な企業に投資した後、現経営陣の注意を株主価値の向上に集中させて株価上昇につなげる手法です。具体的には投資先の取締役の一員となり、経営戦略や資本構成、管理、および収益パフォーマンスといった主要な問題について、他の経営陣、取締役会、および株主と、長い時間をかけながら積極的に協力します。しかし、株主価値向上のための提案が実行に移されない場合、経営者の交代を申し出るといった積極的な行動に出ることもあります。

     ただし、すぐにでも委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)や敵対的買収を駆使しようとするアクティビスト投資とは一線を画すものであったようです。また、こうしたアプローチはプライベート・エクイティ(未公開企業)投資によくみられますが、戦略的ブロック投資では、これを上場企業で展開します。また、エンゲージメント(対話)を重視することから、通常は比較的少数の企業に投資を集中します。リチャード・チャールズ・ブルーム率いるブルーム・キャピタルは、企業に優しい戦略的ブロック投資のパイオニアといわれている企業でした。

    ◆バリアントへの投資

     ここで戦略的ブロック投資を学んだアッベンは、他の二人のパートナーと独立。2000年にバリューアクトを立ち上げ、最高投資責任者(CIO)に就任します。

     その後、バリューアクトの収益に大きく貢献したのが、カナダの製薬会社であるバリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナル(現在のボシュ・ヘルス・カンパニーズ<BHC>)への投資でした。2002年の50ドル台から2006年には半値以下に低迷していたバリアント株を買い下がり、2007年にはアッベン自身がバリアントの取締役に就任。コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーでバリアントを担当していたJ・マイケル・ピアソンがCEO(最高経営責任者)になることをサポートしました。ピアソンはバリアントの中心的な事業を薬品開発から薬品会社買収へと変貌させることで、株価を2015年には250ドルを超える水準まで持ち上げました。

    ボシュ・ヘルス・カンパニーズ<BHC>(旧バリアント)月足
    【タイトル】

     ところが、第18回で取り上げたアンドリュー・エドワード・レフト率いるシトロン・リサーチが、同社は過大評価されているか、詐欺に従事していると主張する報告書を公表して株価は急落に見舞われます。これに第17回で取り上げたビル・アックマン率いるパーシング・スクエアが買い向かいますが、上手くいきませんでした。詳しくは以下をご参照ください。もっとも、バリューアクトは平均買い入れ価格を11ドルまで下げていましたし、途中で保有比率を減らしていましたので、株価急落に伴う損失は限定的だったようです。

    ▼パーシング・スクエアのビル・アックマン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【17】
    https://fu.minkabu.jp/column/1250

    ▼シトロン・リサーチのアンドリュー・レフト(前編)―デリバティブを奏でる男たち【18】
    https://fu.minkabu.jp/column/1259

    ◆マイクロソフトへの投資

     また、バリューアクトを有名したのは、マイクロソフト<MSFT>への投資でした。創業者のビル・ゲイツが退任した2000年以降、ゲイツの右腕と称されたスティーブ・アンソニー・バルマーが同社のCEOを務めていました。しかし、株価はゲイツ退任前の60ドル手前から半値前後に落ち込んだままでした。バリューアクトは、2013年に同社株式を約20億ドル保有していると表明。発行済み株式数の1%にもなりませんでしたが、自社株買いプログラムや配当増額を通じて株価を上昇させない場合、マイクロソフトの取締役会に加わることを目指すと公言しました。

    (※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

    ◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
    証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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