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    2024年3月16日 11時00分

    今中能夫【米国株ハイテク・ウォーズ】<AIの威力①>

    「AIブームはまだ始まったばかり…バブル論に反論できるこれだけの理由」

    "勃発、生成AIウォーズ" …。マイクロソフトが時価総額世界首位の座に返り咲き、エヌビディアが半導体メーカー初の時価総額1兆ドル超えを果たすなど、「生成AI」という巨大なイノベーションは、世界経済の成長エンジン、米国ビッグ・テックの勢力図も大きく変えつつある。今月からスタートする新連載では、激動の米国ハイテク企業の"深層"を、ハイテク、半導体セクター分析のオーソリティーが指南する。連載スタートの今月は、2回に分けて、GAFAM各社の動向や、今後の見通しについて伝えたい。

    ◆マイクロソフトCEOの言葉が、いまの米国株式市場の変化を象徴

     エヌビディア<NVDA>の決算を頂点とした2023年12月期、24年1月期の主要企業決算が発表され、半月あまりが経過した。今回の各社決算を振り返り、その意味をひと言に集約すると、マイクロソフト<MSFT>CEOのサティア・ナデラが決算発表時に発した言葉、「私たちは AI (人工知能)について『話す』ことから、AI を大規模に『適用する』ことに移行する」に尽きるだろう。
     
     エヌビディアの24年1月期決算があまりにも強烈だったため、すでに市場関係者の間に「そろそろ成長がスローダウンするのではないか」という声も聞かれるようになってきた。だが、22年11月にオープンAIのサム・アルトマンが「生成AI」を発表してから始まった今回のAIブームはまだ序章に過ぎない。これから本格的に企業の情報システムへの生成AI導入が始まり、短くて3年、もしかしたら7、8年以上続く、長期のムーブメントになるのではないだろうか。
     
     なぜなら、この種の大規模な情報システムを企業が新たに導入しようとする場合、初めから完成されたシステムを導入できるわけではなく、導入してから何度も"トライ&エラー"を重ねる。一発でうまく動くなどということはなく、徐々に導入企業に合ったシステムに改良していく。
     
     例えば、企業の内部でも情報漏洩のリスクがある。AIをいきなり未完成のまま企業の情報システムに導入してしまって、社外秘の情報が外部に流出してしまったり、本来なら一部の人間以外アクセスしてはならないような情報が社内に広まってしまったらどうなるだろう。生成AIの能力がこれまでの常識を超えているからこそ、こうしたリスクを考慮しながら、慎重に時間をかけて導入していかなければならないのだ。
     
    ◆ERPブームと生成AIブームの共通点と相違点
     
     今回の生成AIブームで思い出すのは、1990年代のERP(統合基幹業務システム)導入の世界的なブームだ。企業の経営情報を一元管理できる手法として、世界中の大企業が競うように導入を進めた光景は、いまの生成AIブームに重なる。そして、この時も、システムが行き渡ってブームが終焉するまで7、8年の時間がかかった。
     
     とは言えERPは、メインプレイヤーはオラクル<ORCL>とドイツのSAP<SAP>ぐらいで、導入対象も世界的な大手企業に限られていた。IT大手各社が参入し、個人から中小企業、大企業にまで広範な普及が想定されるいまの生成AIとは規模が違う。
     
     翻って現在は、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト、アルファベット<GOOGL>といった大手クラウド・サービス、メタ・プラットフォームズ<META>などの大手SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、その他大手IT企業が、立場や利害の違いはありつつも、皆がこぞって「生成AIが一大ブームになる」という意見で一致している。これから世界の大手IT企業の間では、熾烈な生成AI競争が繰り広げられることが予想されるのだ。

     一連の決算で印象深かったのは、デル・テクノロジーズ<DELL>の決算会見でのコメントだ。「AI を使用した日常的な作業のほとんどが PC 上で行われるようになるため、PC はさらに不可欠なものになる」。当たり前のことだが、実際その通りで、昨年12月に、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>がAI機能を強化した半導体を発表したが、それを搭載したパソコンが好調だという。インテル<INTC>も遅ればせながらAI半導体を発売したが、これもゲーム用やパソコン用で人気になっている。

     極端に言ってしまえば、いまはAIという名前を付けさえすれば、何でも売れる時代になっている。そんな生成AIブームの真っただ中で発表されたのが今回の決算シーズンだった。だがここで見えてきたのは、ハイテク各社の生成AIへの対応の違いだ。
     
    ◆生成AIへの取り組みで明暗分けた、GAFAM各社への市場の反応

     生成AIに対しては、GAFAM各社の中でマイクロソフトが先行し、各社が追うという展開だ。そんな中、今回の決算で強く思ったのは、アップル<AAPL>が乗り遅れてしまったのではないかということだ。確かに同社のティム・クックCEOは2月28日の年次株主総会で、「年内に生成AI戦略を発表する」と話していた。ちなみに、最近発売されたM3チップ搭載の新型「MacBook Air」は生成AIを動かすには十分な能力を備えている。ただし、もし、今年9月と思われる新型「iPhone」の発売時に生成AIについて中身のある発表ができない場合には、市場の評価が落ちてしまうことになりかねない。
     
     またアルファベットも、先日提供を開始したばかりの自社開発生成AIサービス「Gemini(ジェミニ)」が、質問に対して問題のある回答を寄せるなど、性能に疑問が呈され、株価が急落してしまった。生成AIの難しいところはここだ。各社、大急ぎで対応しようとしているが、そんなに簡単なものではない。生成AIの動作を様々な角度で検証し、厳重にチェックしていかないとまともに使えるものにはならないのだ。
     
     半面、アマゾンの動きには注目したい。大手クラウド企業の中では、マイクロソフトとグーグル(アルファベット)は、あくまでも自社開発のAIをサービスに組み込もうとしている。それに対してアマゾンは、自社開発も続けているが、「アマゾン・ベッドロック」という外部のインフラを開放したサービスを展開し、高い評価を受けている。
     
     現時点で生成AIはオープンAIの「Chat(チャット)GPT」を擁するマイクロソフトがリードしている。同社のクラウド・サービス「アジュール」のシェアが上がり、業績も絶好調だ。だが、もともとIT業界やユーザーは、こうした寡占を嫌う傾向がある。今回の生成AIブーム以前に、現時点でもマイクロソフトの「オフィス」は世界中のほとんどの企業に導入されている。これ以上、マイクロソフトに市場を独占させていいのか、というのが利用する企業側の本音ではないか。
     
     その点、アマゾン・ベッドロックは、利用する各社に生成AIの開発環境を開放し、ここに集まる生成AIを「好きなようにカスタマイズしてください」というサービスだ。ビッグ・テックの中ではメタが自社開発の生成AI「Llama2(ラマ2)」を提供しているし、もちろん、アマゾンが自社開発した生成AIアシスタント「アマゾンQ」も使える。

     アマゾンについては、近年の成長をけん引してきたAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の成長率鈍化を心配する声もあるが、生成AIをうまく活用すれば、主力のEC部門の利益率改善にも期待ができる。例えば、生成AIを導入して物流システムの効率化を促進したり、顧客の商品購入を促す仕組みを作ることができれば、収益力がかなり向上するだろう。売上高が巨額で営業利益率が一桁%しかないアマゾンは、1%の営業利益率改善が、大きな増益に結び付くのだ。
     
     メタも業績は絶好調だ。昨年まではメタバース(通信ネットワーク上の仮想空間)に経営資源を集中し、ビッグ・テックの中でも苦戦を強いられていたが、メタバース用に構築しようとした巨大ネットワークを生成AIにそのまま利用できたのが、同社にとって幸運だったし、いまとなっては"強み"に変身した。何と言っても広告の収益力が抜群で、アメリカの好景気、欧州の広告出稿回復を背景に、長年の同社の課題だったインスタグラム広告も採算に乗ってきた。巨大ネットワークへの大規模投資を続けながら、しっかりと利益を出す体質になっているのだから侮れない。
     
     アルファベットは検索広告の伸びが鈍すぎる。もちろん、前年同期比13%増と伸びてはいるのだが、メタが同24%増、アマゾンも同27%増となったのと比べるとかなり見劣りする。メタとアマゾンに広告シェアを奪われているのではないかという見方もある。しかも今後、生成AIが普及すれば、これまでネット検索のシェアを独占していたグーグルの立場が奪われるかもしれない。メタも収益構造は広告依存だが、同社は世界で32億人のユーザーを囲い込んでいる。検索広告頼みのアルファベットにはない優位点だ。

    ◆ビッグ・テックの3社は「バイ」「ホールド」、2社は他銘柄へのシフトも要検討
     
     アップルの2024年9月期第1四半期は「良くもなく悪くもなく」といった結果だったが、やはり生成AIについて、具体的な取り組みが見えてこないことが大きな問題だ。そもそも、同社PC、マックのユーザーは、デザイナーや映像制作者などクリエイターが多く、次に学者などのアカデミア関係も多い。つまり、これからの時代、生成AIがないと仕事にならない人たちなのだ。

     すでに広告クリエイターたちは生成AIを活用しているし、アニメ・クリエイターにもそうした動きが出てきた。これから生成AIの機能が向上していくと、マックでは生成AIが使いにくい、ということになりかねない。と言うのも、伝統的に同社のパソコンは、ユーザーが購入後にメモリーやストレージを増強することが難しい。今後の生成AIの技術進歩によっては自由度が高いウインドウズPCを選ぶクリエイターが増えるかもしれない。

     多くのクリエイターがマイクロソフトのウインドウズに移行するとなれば、業績への打撃はもちろん、同社がこれまで築いてきた高いブランド・イメージも損なわれるだろう。すぐに業績が悪化するわけではないだろうが、このままの状態が続けば、長いスパンでじわじわと影響が出てくるのではないか。正直、そんなことを感じたのが、今回の同社の決算会見だった。

     いずれにせよ、ビッグ・テック各社の生成AI開発競争はこれから激化していく。「ブームの終焉」などはまだまだ考えられず、この先、かなりの期間、生成AIで利益を上げられるかどうかが、各社の命運を分けていく。アナリストとしての意見を言えば、今回の各社の決算と現在の動きを見る限り、マイクロソフト、アマゾン、メタの3社は今後も、「バイ」「ホールド」でいいだろう。一方、アップルとアルファベットについては、一度、売却して生成AI系の銘柄にシフトすることも考えるべきなのかもしれない。

    ▼今中能夫【米国株ハイテク・ウォーズ】<AIの威力②>はこちら↓
    第2のエヌビディアは当面現れないだろうが、第2のスーパーマイクロは現れるかもしれない

    【著者】
    今中能夫(いまなか・やすお)
    楽天証券経済研究所チーフアナリスト

    1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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