2024年1月16日 9時20分
有沢正一(岩井コスモ証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
米中央銀行の事実上の利上げ終結などを受けて、株式相場は堅調に推移している。日本株も日経平均株価がバブル経済崩壊後の最高値を更新するなど好調だ。もっとも、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突は収束のメドがつかず、世界的なインフレもなお続く。中国経済の停滞懸念も強まっており、市場の先行き不透明感が払拭されたわけではない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第21回は岩井コスモ証券の有沢正一・投資調査部・部長に話を聞いた。
●有沢正一(ありさわしょういち)
―― 日経平均株価がバブル経済崩壊後の高値を更新するなど、年初から日米株価は好調です。半年後(7月末)の日米株価の予測を教えてください。
有沢:私は7月末の日経平均株価は3万8000円、米ダウ工業株30種平均は3万9000ドル程度だと予測しています。
―― 株式相場は好調が続くとの見方かと思いますが、背景は。
有沢:日本の株式市場の堅調さの背景は、好調な企業業績です。2025年3月期の業績予想を見ると、今後の5%程度の株価の上昇は企業の利益水準の向上で説明できます。特に小売りやサービスなど内需型企業やシステム、ソフトウエアなど設備投資関連の業績が伸びています。
もう1つは、デフレ脱却への期待が高まることです。物価が上昇すれば企業の売り上げが増え、予想PER(株価収益率)の評価を引き上げます。例えば、安倍晋三政権が進めた経済政策「アベノミクス」の前半(2013~15年)は、日経平均株価のPERが16倍程度でした。今は14~15倍ですから、上昇余地はなお大きいと考えています。
―― 1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まりました。
有沢:新NISAも今後数年、日本の株式相場の追い風になるでしょう。今年に入って、家計資産が株式投資に動いています。特に投資が増えているのがNTT <9432> [東証P]やJT <2914> [東証P]、日本郵船 <9101> [東証P]などの高利回り株です。
今回、政府が新NISAを導入したタイミングは抜群に良かったと思います。この1~2年でインフレ警戒が高まっており、個人がリスク資産を含めた運用を必要としているからです。東京証券取引所が昨年、PBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業などに対して、改善策を開示・実行するよう要請したこともプラスです。これを受けて企業は自社株買い、配当など投資家を意識した経営戦略を取らざるを得なくなっています。これらの点で、デフレ下でNISAが初めて導入された14年とは大きく状況が違います。
―― 日米の金融政策の方向性の違いから金利差が縮小し、円相場が円高・ドル安に動くとの見方が増えています。円高が日本株に及ぼす影響は。
有沢:私は、円相場は上下しながらも円高方向に動くと見ています。7月末ころは1ドル=135円程度まで上昇すると思いますが、それ以上の極端な円高にはならないでしょう。このため、日本の株式相場への影響はそこまで大きくないと考えています。
―― 米国の株式市場も堅調に推移する予測です。
有沢:米国の景気は減速するものの、今年前半に底を打つと予測しています。6月前後からFRB(米連邦準備理事会)による利下げが始まり、インフレがある程度落ち着いていれば複数回の利下げがあると見ています。一定の景気過熱や物価高を一時的に容認する、いわゆる「高圧経済」です。その後は金融相場から業績相場へのバトンタッチを窺う展開になるでしょう。
―― サウジアラビアが原油の輸出価格を引き下げたと伝わり、原油価格が下落する場面がありました。
有沢:生産量を維持したいアフリカ諸国が協調減産に反対するなど、産油国の足並みは乱れつつあります。サウジアラビアも財政が厳しいだけに、減産ばかりしてはいられません。仮に米大統領選で共和党が勝利すれば、シェールオイルの生産量も大幅に増えるでしょう。原油価格は今後、下がっていく方向で、米国などのインフレの沈静化にはプラスになると見られます。
―― 11月には米大統領選が控えています。影響をどうみますか。
有沢:トランプ氏が勝てば、株式相場を後押しする強力な政策を打つでしょう。民主党が勝利しても米国株の上昇を後押しすると考えられます。しかし、問題は米国の民主主義が揺らいでいることです。双方が選挙結果を受け入れ、きちんと大統領が決まるのかどうかという問題があります。大統領選をきっかけに米国がさらに分断を深めることになれば、株式相場にも悪影響が出てくるでしょう。今回の大統領選はこれまでなかったリスクを抱えています。
―― 日米の株式市場で注目する銘柄は。
有沢:米国ではエヌビディア<NVDA>とマイクロソフト<MSFT>です。好況と不況が周期的に訪れる「シリコンサイクル」が上向きになることが背景です。エヌビディアの株価はすでに高騰していますが、今後は生成AI(人工知能)で使われる半導体という新たな需要が加わります。
―― 個人投資家の中には、半導体のようなサイクルの激しい分野で1銘柄に大きな投資をするのを不安だという人や、最低投資額が大きすぎるという人もいます。
有沢:その場合は、テック株の多い「ナスダック100指数」に連動する投資信託を購入する方法があります。また、コカ・コーラ<KO>、プロクター・アンド・ギャンブル<PG>など比較的高い配当利回りの銘柄を購入するやり方もあると思います。
―― 日本株式で注目される銘柄は。
有沢:日本株ではNTT <9432> [東証P]です。配当が高いこともありますが、同社の次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」の成長期待もあります。NTT法が改正され、研究成果の公開義務の撤廃など規制が緩和されればNTT株への買いを誘う可能性もあります。このほか、東京エレクトロン <8035> [東証P]やSCREENホールディングス <7735> [東証P]など半導体関連は世界的にも高い競争力を持っており、注目しています。
(※聞き手は日高広太郎)
株探ニュース
●有沢正一(ありさわしょういち)
1989年岩井証券入社、2003年よりイワイ・リサーチセンター長、2012年5月より岩井コスモ証券、2017年1月より現職。日本証券アナリスト検定会員。株式投資の対象となる企業調査の傍ら、マーケット視線で経済や社会の動きを分析、解説。YouTubeやウェビナーなどでも個人投資家向けの市場解説を行う。
ストックボイスTV「北浜のいぶし銀」、サンテレビ「キャッチ+」出演。
ストックボイスTV「北浜のいぶし銀」、サンテレビ「キャッチ+」出演。
有沢正一氏の予測 4つのポイント | |
(1) | 半年後の日経平均株価は3万8000円程度 |
(2) | 半年後のダウ工業株30種平均は3万9000ドル程度 |
(3) | 半年後の円相場は1ドル=135円程度。極端な円高にはならない |
(4) | 注目する銘柄は米国ではエヌビディア、日本ではNTTや大手半導体関連株 |
―― 日経平均株価がバブル経済崩壊後の高値を更新するなど、年初から日米株価は好調です。半年後(7月末)の日米株価の予測を教えてください。
有沢:私は7月末の日経平均株価は3万8000円、米ダウ工業株30種平均は3万9000ドル程度だと予測しています。
―― 株式相場は好調が続くとの見方かと思いますが、背景は。
有沢:日本の株式市場の堅調さの背景は、好調な企業業績です。2025年3月期の業績予想を見ると、今後の5%程度の株価の上昇は企業の利益水準の向上で説明できます。特に小売りやサービスなど内需型企業やシステム、ソフトウエアなど設備投資関連の業績が伸びています。
もう1つは、デフレ脱却への期待が高まることです。物価が上昇すれば企業の売り上げが増え、予想PER(株価収益率)の評価を引き上げます。例えば、安倍晋三政権が進めた経済政策「アベノミクス」の前半(2013~15年)は、日経平均株価のPERが16倍程度でした。今は14~15倍ですから、上昇余地はなお大きいと考えています。
―― 1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まりました。
有沢:新NISAも今後数年、日本の株式相場の追い風になるでしょう。今年に入って、家計資産が株式投資に動いています。特に投資が増えているのがNTT <9432> [東証P]やJT <2914> [東証P]、日本郵船 <9101> [東証P]などの高利回り株です。
今回、政府が新NISAを導入したタイミングは抜群に良かったと思います。この1~2年でインフレ警戒が高まっており、個人がリスク資産を含めた運用を必要としているからです。東京証券取引所が昨年、PBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業などに対して、改善策を開示・実行するよう要請したこともプラスです。これを受けて企業は自社株買い、配当など投資家を意識した経営戦略を取らざるを得なくなっています。これらの点で、デフレ下でNISAが初めて導入された14年とは大きく状況が違います。
―― 日米の金融政策の方向性の違いから金利差が縮小し、円相場が円高・ドル安に動くとの見方が増えています。円高が日本株に及ぼす影響は。
有沢:私は、円相場は上下しながらも円高方向に動くと見ています。7月末ころは1ドル=135円程度まで上昇すると思いますが、それ以上の極端な円高にはならないでしょう。このため、日本の株式相場への影響はそこまで大きくないと考えています。
―― 米国の株式市場も堅調に推移する予測です。
有沢:米国の景気は減速するものの、今年前半に底を打つと予測しています。6月前後からFRB(米連邦準備理事会)による利下げが始まり、インフレがある程度落ち着いていれば複数回の利下げがあると見ています。一定の景気過熱や物価高を一時的に容認する、いわゆる「高圧経済」です。その後は金融相場から業績相場へのバトンタッチを窺う展開になるでしょう。
―― サウジアラビアが原油の輸出価格を引き下げたと伝わり、原油価格が下落する場面がありました。
有沢:生産量を維持したいアフリカ諸国が協調減産に反対するなど、産油国の足並みは乱れつつあります。サウジアラビアも財政が厳しいだけに、減産ばかりしてはいられません。仮に米大統領選で共和党が勝利すれば、シェールオイルの生産量も大幅に増えるでしょう。原油価格は今後、下がっていく方向で、米国などのインフレの沈静化にはプラスになると見られます。
―― 11月には米大統領選が控えています。影響をどうみますか。
有沢:トランプ氏が勝てば、株式相場を後押しする強力な政策を打つでしょう。民主党が勝利しても米国株の上昇を後押しすると考えられます。しかし、問題は米国の民主主義が揺らいでいることです。双方が選挙結果を受け入れ、きちんと大統領が決まるのかどうかという問題があります。大統領選をきっかけに米国がさらに分断を深めることになれば、株式相場にも悪影響が出てくるでしょう。今回の大統領選はこれまでなかったリスクを抱えています。
―― 日米の株式市場で注目する銘柄は。
有沢:米国ではエヌビディア<NVDA>とマイクロソフト<MSFT>です。好況と不況が周期的に訪れる「シリコンサイクル」が上向きになることが背景です。エヌビディアの株価はすでに高騰していますが、今後は生成AI(人工知能)で使われる半導体という新たな需要が加わります。
―― 個人投資家の中には、半導体のようなサイクルの激しい分野で1銘柄に大きな投資をするのを不安だという人や、最低投資額が大きすぎるという人もいます。
有沢:その場合は、テック株の多い「ナスダック100指数」に連動する投資信託を購入する方法があります。また、コカ・コーラ<KO>、プロクター・アンド・ギャンブル<PG>など比較的高い配当利回りの銘柄を購入するやり方もあると思います。
―― 日本株式で注目される銘柄は。
有沢:日本株ではNTT <9432> [東証P]です。配当が高いこともありますが、同社の次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」の成長期待もあります。NTT法が改正され、研究成果の公開義務の撤廃など規制が緩和されればNTT株への買いを誘う可能性もあります。このほか、東京エレクトロン <8035> [東証P]やSCREENホールディングス <7735> [東証P]など半導体関連は世界的にも高い競争力を持っており、注目しています。
(※聞き手は日高広太郎)
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
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