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    2026年3月26日 10時00分

    需給の壺―原油・エネルギーの需給②―【若桑カズヲの株探ゼミナール】


    第21回:原油・エネルギーの需給②
    ―「信用の蒸発」と地政学の深淵、狭い出口の金融政策が直面する断崖―

     市場価格を動かす本質的な要因は、需要と供給、すなわち「需給」に尽きる。経済指標や金融政策、地政学リスクといった政治情勢のほか、他の金融市場の動向など、しばしば価格変動の要因として語られる指標は、あくまで需給を変動させる「きっかけ」に過ぎない。本連載では、この「需給の壺(ツボ)」を読み解くことを目的とし、マーケットにおける需給の基本構造とその変遷を追いながら、未来への洞察を試みる。

     前回は原油の精製プロセスと、米国のシェール革命が変貌させた供給構造を概観した。今回はその続きであるが、足元でプライベートクレジットの問題が広がりを見せ始めてきた点についても触れておきたい。この問題で前回、英住宅金融会社マーケット・フィナンシャル・ソリューションズ(MFS)が2026年2月に経営破綻したことを指摘した。その数日前に英国の同業者センチュリー・キャピタル・パートナーズも破綻している。そのきっかけは、ブルー・アウル・キャピタル<OBDC>による財務報告の不正発見と融資返済要求だったという。

    ▼需給の壺―原油・エネルギーの需給①―【若桑カズヲの株探ゼミナール】
    https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202603130567

     前々回で触れたとおり、プライベートクレジットの問題は、ブルー・アウルによるファンド解約の停止で注目を浴びるようになった。そのブルー・アウルが自らを守るために行った融資返済要求によって、皮肉にも問題を広げる結果を招いてしまった。これらはプライベートクレジット・ファンドの解約請求(リデンプション)を煽ることになり、ブラックロック<BLK>のほか、ブラックストーン<BX>やモルガン・スタンレー<MS>、米投資顧問のクリフウォーターもプライベートクレジット・ファンドの解約制限を設ける事態に至っている。また、同業のアポロ・グローバル・マネジメント<APO>やアレス・マネジメント<ARES>も株価急落に見舞われている。

    ▼需給の壺―流動性の需給③―【若桑カズヲの株探ゼミナール】
    https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202602270619

    図1 アポロ・グローバル・マネジメント<APO>(週足)
    【タイトル】

    図2 アレス・マネジメント<ARES>(週足)
    【タイトル】

     この問題は、2008年に起きたリーマン・ショックのような信用収縮(クレジット・クランチ)に陥るプロセスを踏襲している可能性があり、注意深く見守っていく必要がある。

     なお、米連邦準備制度理事会(FRB)が2026年3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に、銀行の自己資本に関する規制緩和案を発表した。これにより大手銀行の自己資本要件が4.8%減少し、数十億ドル規模の資金余力が生まれるという。銀行の融資能力が強化されることで、プライベートクレジットの問題も収束に向かう可能性が出てきた。

    ◆地政学の頸動脈:ホルムズ海峡の封鎖

     その一方でイランを巡る地政学的リスクは依然として株式市場に悪影響を与え続けており、日米の株価指数はほぼ調整局面入り(直近高値から1割以上の下落)した。なぜ2026年のいま、世界が1970年代の危機を彷彿とさせる「第3のオイルショック」の瀬戸際に立たされているのか。その歴史的必然と未来のシナリオを詳解する。

     2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対して大規模攻撃を開始したことにより、イランの報復攻撃が始まった。ホルムズ海峡という世界の原油流通のおよそ2割を担う「頸動脈」が無秩序な戦場と化し、半世紀以上にわたる中東のエネルギー秩序を根本から破壊した。これが原油価格に「地政学プレミアム」という名の暴力的な需給圧力を加えている。

    ◆歴史の鏡:「100ドル超え」が示唆する狂乱の再来

     半世紀前のオイルショックにより生じた「狂乱物価」から、我々は何を学ぶべきかを考えよう。当時のデータは、現在のマーケットに対する深刻な警告に満ちている。1861年以降の米国消費者物価指数(2024年基準)で調整した原油価格の推移をみると、20世紀に入ってから1バレル=100ドル超えとなったのは、①1979年のイラン革命による第2次オイルショック、②2008年のリーマン・ショック、③2010年の「アラブの春」、④2022年のロシア・ウクライナ戦争の勃発時であり、今回で5回目の100ドル超えとなる。

     ちなみに、日本の輸入原油価格は石油連盟(Petroleum Association of Japan)によると、主力であるサウジアラビア原油の場合、ドバイ原油とオマーン原油のスポット価格の月間平均値に、サウジアラムコ(サウジアラビア国営石油会社)が毎月設定する調整金を加減して設定されているほか、為替の影響を受ける。

    図3 円ベースのブレント原油価格
    【タイトル】

    出所:ブレント原油の先物期近価格(ドル、バレル)を円ベース、かつリットルベースで算出


    ◆金融政策のジレンマ:ボルカーの教訓と「中央銀行の苦悩」

     1980年代初頭、ポール・ボルカーFRB議長は、インフレ退治のためにFF(フェデラル・ファンド)金利を一時20%超という驚愕の水準まで引き上げた。当時のインフレ要因は原油高騰というコストプッシュ・インフレであり、金融引き締めによって原油供給量を増やせるわけではない。しかし、需要を極端に抑制することでインフレ退治を目指したのである。だが、これにより失業率7%以上という景気悪化に加え、預金量で全米7位だったコンチネンタル・イリノイ銀行(1994年にバンク・オブ・アメリカ<BAC>が買収)が事実上破綻(公的資金注入)に至るという副作用も招いてしまった。

     2026年現在、金融を引き締めようにも、プライベートクレジットの問題が致命的な足枷となっているように見える。金利を上げればインフレを叩けるかもしれないが、その前に「シャドーバンキングの連鎖破綻」という金融システムの死を招く可能性も高い。

     冒頭で触れた米大手銀行の自己資本要件の緩和は、インフレを抑制しつつも、クレジット・クランチを招かないようにする苦肉の策と言えるだろう。一方でマーケットは、この「インフレ死か、金融システム死か」という究極の選択を見透かしており、それが原油価格の「不信のプレミアム」上乗せを招いていると考えられる。

     日本銀行 <8301> も質は異なるが、似たような悩みを抱える。オイルショック当時との決定的な違いは、2025年12月現在の日本が国内総生産(GDP)の2倍以上にあたる1129兆円もの国債を発行(借金)していることである。1970年代や1980年代のような9%への利上げを行えば、政府の利払いコストが膨張し、国家財政そのものが破綻するという懸念を招く。つまり、日銀はインフレを止めるための金融引き締め政策を抑え込まれる可能性があり、この「中央銀行の無力化」を見越した投機資金が円売りを促している。

    ◆今後の行方:2026年後半に向けた3つの需給シナリオ

     いまマーケットの関心は「地政学リスクがいつまで原油価格に織り込まれ続けるか」という一点に集約されている。原油市場の需給バランスは現在、物理的な供給網の不確実性と、世界的な景気減速による需要抑制の狭間で極めて不安定な状態にある。原油価格は今後どう動くのか、以下の3つの需給シナリオを想定した。

     シナリオ①は、限定的な紛争による需給(原油価格の落ち着きどころは1バレル=85~100ドル)である。この場合、紛争が局地化してホルムズ海峡の通航は最低限維持されるものの、通航の断続的な遅延や保険料の高騰が続く。一方、世界的な高金利政策の影響で製造業のエネルギー需要が減退するため、120ドルを超えるような上放れも抑制される小康状態を迎える。

     シナリオ②は、供給網の全面断絶による需給(同150ドル~)である。イランによる海峡封鎖が全面的に実施される。各国の戦略備蓄の放出も限界を超え、世界経済は厳しい物価高騰と供給停止に直面する事態となる。日本国内ではガソリンや電力の供給制限(配給制に近い運用)が議論される事態となり、金融資産全般がパニック的な売りを浴びる。

     シナリオ③は、早期鎮静化による需給(同85ドル以下)である。紛争が完全に終結するわけではないものの、海峡通航が回復に向かい、地政学的リスクが抑制される状態を示す。それまで価格を押し上げていた30ドル前後の「地政学プレミアム」は一気に剥落し、マーケットの視点は再び国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)が指摘するような「世界的な供給余剰」へと戻る。原油価格は速やかに85ドル以下へと収束し、日本経済にとっては輸入物価の低下を通じて「実質賃金の回復」を促す最大の好材料となる。

     もっとも、投資家にとって重要であるのは、特定の価格を当てることではない。供給網の「物理的安全性」が回復するのか、さらなる断絶に向かうのか、という「供給のスイッチ」を監視すべきである。

     現在のマーケットは、「原油の供給が壊れている」ことに加え、「流動性の供給(プライベートクレジット)も壊れる」可能性に懸念を抱いている。この局面で投機資金は、小売やサービスなどの内需株を避け、石油元売りや総合商社、あるいは金や原油といった「実体(実物資産)」に向かった。しかし、こうした事態に備えて投資家は、バークシャー・ハサウェイ<BRK.B>のように常日頃から現金を貯め込み、割高な成長株を急落の度に安値で買い仕込むことを考えておく必要があるだろう。(第22回に続く)

    ◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
    証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。



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