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    2025年11月7日 17時25分

    AIの新たな次元~半導体・電力・データーセンターを垂直統合【フィリップ証券】

     米連邦政府の一時閉鎖が2018年12月から翌月1月にかけての最長期間35日間に近づきつつある。また、11/5より、トランプ米大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に課した国別相互関税の合憲性を巡る連邦最高裁の審理が始まる。関税措置が覆されれば、トランプ政権の政策は重要な財源を失い、米国債や米ドルへの売り加速が考えられる。11/30に韓国で開催された米中首脳会談は成功裡に終了したものの、織り込み済みとなり、追加的な相場へのインパクトは限定的な様相だ。米供給管理協会(ISM)が11/3に発表した10月の米製造業景況指数は8ヵ月連続で50割れの経済活動縮小を示すなど、需要は低調だ。

     また、ニューヨーク証券取引所(NYSE)上場銘柄を対象として52週の高値更新銘柄数と安値更新銘柄数に着目したテクニカル分析指標で有名な「ヒンデンブルグ・オーメン」に関し、警戒シグナルが最近点灯したことが話題になっている。

     それでも、巨大時価総額のハイテク企業、AI(人工知能)半導体・インフラ関連を中心とした一部の銘柄への買いに牽引されて、11/3現在、S&P500株価指数、ナスダック総合指数、ダウ工業株30種平均株価はいずれも10/29に付けた史上最高値の近辺に位置している。巨大時価総額のハイテク企業のうち、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、アルファベット<GOOGL>、メタ・プラットフォームズ<META>、マイクロソフト<MSFT>の4社合計による設備投資額は、7-9月期に前年同期比8割増の1125億ドルで過去最高となった。広告収入に頼らざるを得ないメタは、巨額のインフラ投資に見合う将来的なキャッシュフロー収入の見通しが立ちにくいと見られて決算発表後に株価が下落している一方、クラウドコンピューティング事業で受注残を拡大させている他の3社は顧客からの利用代金によって設備投資コストを賄えると見なされて、相対的に株価が堅調に推移している。

     「AIブーム」に変化の兆しが見られる。「AI」というマジックワードで株価が反応する時期は過ぎたように思われる。AIにとって重要なのは、それを動かす電力とデータセンターの存在だ。マイクロソフトは11/3、オーストラリアのIREN<IREN>と97億ドルの大型契約を締結したと発表。期間は5年で、そのうち20%が前払いというIRENにとって有利な契約内容だ。IRENの事業モデルの特徴は、データセンターを自社設計し、AI計算用の電力供給・冷却・運用まで垂直統合して提供する点にある。AIインフラの一部だけを切り売りするのではない。オランダに本社を置くネビウス・グループ<NBIS>も9月、IRENと同様にマイクロソフトと大規模契約を締結。2031年までに最大194億ドル相当のGPU(画像処理半導体)インフラ容量を提供する。AI向けクラウドサービスを提供するコアウィーブ<CRWV>も10/1、メタと142億ドル分の供給契約を締結したと発表した。


    ■メタ・プラットフォームズとアルファベット決算~7-9月期決算発表後の株価は好対照

     「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米大手ハイテク株のうち、アルファベット<GOOGL>とメタ・プラットフォームズ<META>が10/29の取引終了後に7-9月期決算を発表した。アルファベットは、前年同期比16%増収、純利益が33%増益。その中でもクラウドコンピューティング事業が34%増収、85%営業増益と伸長した。同社傘下のディープマインド社はAI(人工知能)の中核を成す深層強化学習のパイオニア的存在。アルファベットは高いAI技術を背景にネット広告でも競争優位性を保っている。

     メタ・プラットフォームズは前年同期比26%増収、税務関連一時費用の影響を除く調整後純利益が19%増。広告事業が堅調に拡大の一方、データセンターやAI関連設備への投資拡大により総経費が大幅増の見通し。株価にはネガティブだろう。


    【タイトル】


    参考銘柄


    アプティブ<APTV> 市場:NYSE・・・2026/2/6に2025/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

    ・1994年設立の自動車部品の設計・製造を手掛ける大手部品メーカー。送配電システム部門(電装・高電圧関連分野)、技術部品グループ部門、先端セキュリティ部門(自動運転関連)を展開。

    ・10/30発表の2025/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比7.4%増の52.12億USD(会社予想49.50-51.00億USD)、非GAAPの調整後EPSが同18.6%増の2.17USD(同1.60-1.80USD)。営業キャッシュフローが17.0%増の5.84億USD。部門別の調整後営業利益は、送配電システムが18%増益。

    ・通期会社計画は、売上高が前期比1-3%増の200-203億USD、調整後EPSが同17-21%増の7.3-7.6USDと従来計画を据え置いた。トランプ関税導入から6ヵ月が経過する中、自動車の生産と販売への影響が最小限にとどまっている。追加的貿易協定で緩和される可能性が高いとする見方も根強い。株主価値最大化の観点から送配電システム部門を来年3月末を目途にスピンオフの見込み。


    アメリカン・ウォーター・ワークス<AWK> 市場:NYSE・・・2026/2/19に2025/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

    ・1886年設立の北米最大の上下水道企業。飲料水供給、廃水処理、水関連サービスを提供。カリフォルニア州で淡水化事業も展開。25年9月末で水処理施設600ヵ所、廃水処理施設190ヵ所運営。

    ・10/29発表の2025/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比9.7%増の14.51億USD、EPSが同7.7%増の1.94USD。売上比率95%を占める規制事業は、売上高が10%増、純利益が8%増の3.56億USD。料金引き上げが当局に承認されたこと、および買収を含むインフラ投資の拡大が貢献した。

    ・通期会社計画は、非GAAPの調整後EPSを前期比6-7%増の5.7-5.75USD(従来計画5.65-5.75USD)と予想レンジ下限を引き上げた。2026/12期通期EPSについては中心値を同8%増の6.02-6.12USD、長期的なEPSの成長率を年7-9%としている。同社は10/27、同業の上場企業エッセンシャル・ユーティリティーズ<WTRG>を買収することで合意。買収により時価総額が約400億USD規模となる見通し。


    イーライリリー<LLY> 市場:NYSE・・・2026/2/6に2025/12期4Q)10-12月)の決算発表を予定

    ・1876年創業。糖尿病などの内分泌系、神経系、心臓血管系の疾患や癌に対する治療薬を扱う。GLP-1受容体作動薬の「マンジャロ」と「ゼップバウンド」が肥満症治療薬として注目を集めている。

    ・10/30発表の2025/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比54.0%増の176.00億USD、非GAAPの調整後EPSが同495%増の7.02USD。2型糖尿病治療薬・週1回注射を行うマンジャロ(売上比率37%)が109%増収、肥満症治療薬・週1回皮下注射を行うゼップバウンド(同20%)が184%増収。

    ・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比40-41%増の630-635億USD(従来計画600-620億USD)、調整後EPSを同77-82%増の23.00-23.70USD(同21.75-23.00USD)とした。がんやアルツハイマー領域への多角化による成長後押しが見込まれるほか、肥満症治療薬のゼップバウンドは競争圧力や規制強化の懸念があるものの、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)への適用拡大が注目される。


    ネビウス・グループ<NBIS> 市場:NASDAQ・・・2025/11/11に2025/12期3Q(10-12月)の決算発表を予定

    ・1989年設立。AI(人工知能)インフラ構築専門のテクノロジー企業。本社はオランダ。欧州、北米、中東に拠点。大規模GPUクラスター、クラウドプラットフォーム、開発者向けツールを提供する。

    ・8/7発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比7.3倍の1.05億USD、純利益が▲0.97億USDから5.84億USDへ黒字転換。一方で、継続事業ベースの営業キャッシュフローが▲0.14億USDから▲1.05億USDへ、非GAAPの調整後純利益が▲0.61億USDから▲0.91億USDへ赤字幅拡大。

    ・通期会社計画を上方修正。ARR(年間経常収益)を9億USDから11億USDへ引き上げた。同社は2026年末までに1GW(ギガワット)のデータセンター容量達成を目指している。売上高の会社見通しは2025年度が前期比4.6倍の5.36億USD、2026年度が同6.2倍の33億USD。垂直統合型インフラで、エヌビディア<NVDA>のGPUの効率的活用とマイクロソフト<MSFT>との提携を事業の強みとする。


    トゥイリオ<TWLO> 市場:NYSE・・・2026/2/13に2025/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

    ・2008年設立。企業のWeb開発者向けに、電話・IP音声通信・テキストメッセージをWeb・モバイル・電話アプリに統合するクラウド・コミュニケーション・プラットフォームを提供するソフトウェア会社。

    ・10/30発表の2025/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比14.7%増の13.00億USD(会社予想12.45-12.55億USD)、非GAAPの調整後EPSが同22.5%増の1.25USD(同1.01-1.06USD)。稼働顧客数が23%増、既存顧客からの追加収益金額を測る指標である売上継続率が4ポイント上昇の109%。

    ・2025/12期4Q(10-12月)会社計画は、売上高が前年同期比10-11%増の13.10-13.20億USD、調整後EPSが同17-22%増の1.17-1.22USD。AI(人工知能)エージェント向けアイデンティティ・プラットフォームのStytch買収を含むAIシフトとコスト効率化の進展で業績回復が見込まれる。3Qの調整後営業利益率は、売上高販管費率の前年同期比1.1ポイント低下を受けて、同1.9ポイント上昇の18.0%。


    ユニバーサル・ヘルス・サービシズ<UHS> 市場:NYSE・・・2026/2/26に2025/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

    ・1978年設立の医療施設運営会社。一般および専門外科、内科、産婦人科、小児科のほか、救急病院、行動医学ヘルス・センター、外来手術センター、放射線腫瘍学センターを所有・経営する。

    ・10/27発表の2025/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比13.4%増の44.95億USD、非GAAPの調整後EPSが同53.4%増の5.69USD。売上高総費用率は2.0ポイント改善。既存施設営業収益は、1入院患者当たり収入増を受けて救急患者治療が17%増、行動医学ヘルス・センターが9%増。

    ・2025/12通期会社計画を上方修正。営業収益を前期比9-10%増の173.06-174.45億USD(従来計画170.96-173.12億USD)、調整後EPSを同29-33%増の21.50-22.10USD(同20.00-21.00USD)とした。州主導のメディケア(公的医療保険)補助金支給に加え、中長期的にはAI(人工知能)技術の導入によるコスト管理改善と地域病院ネットワークの買収に伴う顧客基盤拡大による成長が見込まれる。


    執筆日:2025年11月4日


    フィリップ証券
    フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
    (公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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    フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。


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