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    2025年7月18日 13時40分

    トランプ関税の物価への影響、製造業復活の可能性【フィリップ証券】

     トランプ米大統領が8/1に発動する見通しの国別の相互関税率が相次いで発表され、市場に波紋が広がっている。日本や韓国は25%とされた他、ブラジルが50%、カナダが35%、メキシコとEU(欧州連合)は30%だ。発動まで交渉の余地があることから、市場はトランプ流の交渉術の一環としてまだ本気で捉えていないように見受けられる。ブラジルが当初の10%から50%とされたのは、ルラ大統領の政敵であるボルソナロ前大統領が起訴されたことへの不満の表れである。一方で、ベトナムが当初の46%から20%に引き下げられたのは、トランプ氏のファミリー企業が開発する複合施設プロジェクトを異例の速さで認可したことが決め手になったとの見方が根強い。米国からするとブラジルは貿易黒字国であり、ベトナムは貿易赤字国である。トランプ米政権が貿易赤字を縮小するという戦略目標に沿って動いているようには見えず、支離滅裂な印象さえ受ける。

     すべての国・地域を対象とした10%の一律関税に加え、自動車・自動車部品、および鉄鋼・アルミニウムに対して既に関税が課される中、米FRB(連邦準備制度理事会)の大半の関係者が懸念するような関税措置による物価への影響はまだ見られない。それを受けてトランプ氏は勝ち誇ったかのように、パウエルFRB議長への利下げ要求のトーンを強めている。7/15発表の6月の消費者物価指数(CPI)で関税の影響が出始めるのかが俄然注目されるところだ。

     実際には、関税が課される前に米国企業が安いコストの商品の仕入れを急いで在庫を確保した効果、および米国へ輸出する海外企業が米国での価格競争力を維持するため、自社の利益を縮小してでも関税分を負担していることの効果が混在していると考えられる。日本の自動車メーカーについては、日本銀行が7/10に発表した6月の企業物価指数によると、北米向け乗用車の契約通貨ベース輸出価格は前年同月比19.4%下落し、2ヵ月連続で2割近い下落となった。それでも、トヨタが7月から米国での車両販売価格を引き上げるなど、関税分の消費者への価格転嫁の動きが出てきた。カナダへの関税引き上げの報道を受けて米国債利回りが30年物が0.09%ポイント、10年物が0.07%ポイント上昇するなど、市場がようやく警戒モードに入ってきた兆しが窺われる。

     「米国製造業の復活」を掲げるトランプ政権の政策は、トランプ氏への米国民の支持が続く間はその期待を背景に、今まで低迷していた米国製造業の株価を反転させる原動力になり得る。トランプ氏が得意とする「ディール」も、米国の国際的プレゼンスが新興国の成長とともに縮小傾向を辿り、多国間の枠組みで勝ちにくくなる一方、二国間の1対1の関係に持ち込めば「米国最強」で負けようがなく、ディール成功の実績はトランプ氏の人気を支えるだろう。


    ■S&P500配当貴族指数と構成銘柄

     「S&P500配当貴族指数」は、米S&P500指数構成銘柄のうち25年以上連続して増配している銘柄を対象とした均等加重型の指数。時価総額30億USD以上、かつ1日当たり平均売買代金が500万USD以上の優良大型株から構成される。野村アセットマネジメントの「NEXT FUNDS S&P500 配当貴族指数連動型ETF<364A>」が6/11に東証に新規上場し、日本株と同様に円建てで取引できるようになった。

     S&P500配当貴族指数は、フィラデルフィア半導体株指数と比較すると価格変動が小さい点に特徴がある。半導体株関連銘柄が買われ過ぎたところでS&P500配当貴族指数に連動したETFあるいはその構成銘柄へ資金をシフトし、半導体関連銘柄が売られるまで待機するような投資戦略も検討の余地があるように思われる。


    【タイトル】


    参考銘柄


    アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド<ADM> 市場:NYSE・・・2025/7/30に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

    ・1902年に創業後1923年にミッドランドを買収。カーギルと共に「二大穀物メジャー」とされる。農産物の調達・輸送・備蓄・販売を行う。大豆、綿花、トウモロコシに強み。2024年まで50年連続で増配。

    ・5/6発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比7.7%減の201.75億USD、非GAAPの調整後EPSが同52.1%減の0.70USD。セグメント別調整後営業利益は、農業サービス&油糧種子が52%減の4.12億USD、脱炭素ソリューションが3%減の2.40億USD、栄養食品が13%増の0.95億USD。

    ・通期会社計画は、調整後EPSが前期比16%減~横ばいと従来計画を据え置いたが、レンジ下限を見込むとした。米国産穀物は政治的思惑から中国が買わなくなって需要が鈍っていた中、トランプ米政権は6/13、2026年にガソリンやディーゼルに混合するバイオ燃料の数量義務を25年目標値より8%増にすると表明。うち大豆油などを使ったディーゼル燃料は26年目標値を前年比67%増とした。


    エアロバイロンメント<AVAV> 市場:NASDAQ・・・2025/9/4に2026/4期1Q(5-7月)の決算発表を予定

    ・1971年設立の防衛産業請負業者。無人航空機の設計・製造をはじめ、戦術ミサイルシステムや関連サービスを提供。商用電気自動車用バッテリーの高速充電システムやサービスも提供する。

    ・6/24発表の2025/4期4Q(2-4月)は、売上高が前年同期比39.6%増の2.75億USD、非GAAPの調整後EPSが同3.7倍の1.61USD。入金済受注残が82%増の7.26億USDへ拡大。徘徊型兵器(LMS)が87%増収と堅調に拡大した。粗利益率の低下は無人地上車両(UGV)事業の償却負担加速による。

    ・2026/4通期会社計画は、防衛テクノロジー企業のBlueHaloの買収が5/1に完了したことを受けて、売上高が前期比2.3-2.4倍の19-20億USD、調整後EPSが同9-15%減の2.80-3.00USD。買収関連費用により減益を見込む。ヘグセス米国防長官が7/11、ドローンの生産と配備を加速させる命令を発令。命令の内容は、全軍に対しドローンを用いた戦闘シミュレーションの実施の義務化などを含む。


    フォード<F> 市場:NYSE・・・2025/7/31に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

    ・1903年設立の自動車メーカー。自動車の大量生産と科学的管理法を取り入れたフォード生産方式は現代の自動車産業の原点とされている。子会社を通じ自動車関連ローン・リース・保険も提供。

    ・5/5発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比5.0%増の406.59億USD、非GAAPの調整後EPSが同71.4%減の0.14USD。同社は米国販売車に占める国産比率は8割と競合他社より高い一方で、米国生産車に占める輸入部品比率が6割に上ることから、トランプ関税の影響を受けた。

    ・トランプ米政権による自動車と部品への追加関税の影響により、2025年通期で15億USDのコストが発生と発表。通期の業績予想を撤回した。2Q(4‐6月)決算で新たな見通しを発表予定。米国産が多いことを訴求した値引きを4月から開始。4‐6月期の新車販売は前年同期比14%増加。7/8に一部車種を対象に「頭金ゼロ、2年間無利子融資、最初の2ヵ月間支払いゼロ」のキャンペーンを開始。


    フリーポート・マクモラン<FCX> 市場:NYSE・・・2025/7/23に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

    ・1987年設立。世界的鉱業会社で米アリゾナ州を本拠地とする。米モレンシー鉱山地区、ペルーのセロベルデ鉱山のほか、世界最大の銅・金鉱床の1つであるインドネシアのGrasberg鉱山を運営。

    ・4/24発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比9.4%減の57.28億USD、非GAAPの調整後EPSが同25.0%減の0.24USD。主力の銅は、平均販売単価が13%上昇も、インドネシア政府による銅輸出規制の影響を受けて販売量が20%減少し、単位当たり純現金費用が37%増加した。

    ・通期会社計画(販売量)は、銅が前期比5.1%増の40億ポンド、金が同15%減の1600万オンスと、従来計画を据え置いた。インドネシア政府は同社に対して銅の輸出許可延長を認める方針を示した。さらに米国でもトランプ米政権が8/1から輸入される銅および半製品に50%の関税を課すと表明。アリゾナ州フェニックスのモレンシー銅鉱山を経営しており、米関税に対し優位な立場にある。



    ソーファイ・テクノロジーズ<SOFI> 市場:NASDAQ ・・・2025/7/29に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

    ・2011年にスタンフォード大ビジネススクールの学生が設立。貸付事業(学生ローン、個人ローン、住宅ローン)、金融サービス事業(SoFi Bankを通じた銀行業務他)のデジタル金融サービスを提供。

    ・4/29発表の2025/12期1Q(1-3月)は、非GAAPの調整後売上高が前年同期比32.7%増の7.70億USD(会社予想7.25-7.45億USD)、調整後EBITDAが同45.7%増の2.10億USD(同1.75-1.85億USD)。事業別利益は、貸付事業が15%増の2.38億USD、金融サービス事業が4.0倍の1.48億USDへ拡大。

    ・通期会社計画を上方修正。純営業収益を前期比21-24%増の32.35-33.10億USD(従来計画32.00-32.75億USD)、調整後EBITDAを同31-34%増の8.75-8.95億USD(同8.45-8.65億USD)とした。トランプ米政権の大規模減税・歳出法が7/4に成立。同法によれば2026年7月以降は大学院生および専門職学生向けの連邦借入が制限され、実質的に年間約140億USDの学生ローンが民営化される。


    執筆日:2025年7月14日


    フィリップ証券
    フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
    (公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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    フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。


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