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    2026年9月12日 11時00分

    安田秀樹【任天堂復調のカギは、ユーザー心理への深い理解】

    ●新幹線増発で東名阪の移動需要を取り込むJR東海

     今月はまず鉄道業界について述べておきたい。JR東海 <9022> の2027年3月期第1四半期(26年4-6月期)決算は増収、営業微減益であった。前年の関西万博関連の輸送が好調だった反動と、6月の台風による影響を考慮すれば、大いに健闘したと言えるだろう。

     また、新幹線事業は第1四半期の輸送量が前年比1%増を記録した。この背景には、特定時間帯を中心に「のぞみ」の運行本数を毎時12本から13本へと増発した施策がある。JR東海の説明によれば、熱海駅は2面2線で追い越しができず、同駅に停車する「ひかり」がダイヤ上のボトルネックとなっていた。そこで「ひかり」の発車時刻を調整し、東京~新大阪間を最速で結ぶ列車の運用を見直すことで、1本分の増発枠を確保したようだ。これによりゴールデンウィークをはじめとする繁忙期の輸送力が拡大し、利用者増につながった。

     東名阪間の移動は「推し活」やインバウンド需要により活発化していて、拡大する需要への継続的な対応が求められる。筆者自身も22時台に東京へ到着する「のぞみ」を先日利用したが、平日夜にもかかわらず指定席はほぼ満席の盛況ぶりであった。

     現行設備でも毎時14本までは対応可能と筆者は見ているが、それ以上の増発には大井車両基地への回送体制の見直しや移動閉塞(へいそく)システムの導入など、相応の設備投資が必要になるだろう。ちなみに移動閉塞システムとは、列車同士がリアルタイムに安全な距離を計算・確保して走る最新の信号保安システムで、地上の信号機で列車の接近を防ぐ従来の方式より運行間隔を大幅に短縮できるのが特徴だ。

     東名阪の移動需要は中長期的に増加基調にあるが、リニア中央新幹線の開業にはまだ10年以上の歳月を要する。収益拡大を着実に進めるためにも、東海道新幹線のさらなる増発の推進に期待したい。

    ●AIブームが生んだ金利上昇こそ、鉄道業界の懸念材料

     続いて私鉄大手の、阪急阪神ホールディングス <9042> と名古屋鉄道 <9048> についてである。両社の第1四半期業績は堅調であり、通期計画に対する進捗も概ね順調とみている。しかし中長期的な課題として、注視すべきは「金利上昇リスク」である。鉄道各社のように多額の有利子負債を抱える企業にとって、金利上昇は利払い負担の増加を通じて収益を圧迫しかねない構造的リスクと言える。

     もちろん、株式市場全体にとっても金利上昇は株価のバリュエーション調整圧力となる。なぜ、金利上昇が進んでいるのか。それは現在、ハイパースケーラーと呼ばれる米IT大手5社(アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト<MSFT>、アルファベット<GOOG>、メタ・プラットフォームズ<META>、オラクル<ORCL>)の設備投資が急増しており、5社の投資額の合計が今期100兆円以上、来期には200兆円前後に達する可能性があることに起因している。

     すでにアルファベットのように、フリーキャッシュフローが純減に転じ、新株や社債の発行による資金調達へ動く事例も出ている。国内でもソフトバンクグループ <9984> が1兆円規模の社債発行を発表し、ドル建てでも200億ドル(約3兆円)規模の起債が報道されるなど、AI(人工知能)インフラへの投資競争に伴う資金需要は極めて旺盛である。

     この債券市場への資金供給増が長期金利を押し上げる要因となり得るのである。AI市場の先行きについては、「このペースが持続して半導体関連の成長を牽引できるか」、「巨額投資に見合うAIの収益化が実現するのか」という2点が焦点となる。引き続きリサーチを継続していきたい。

    ●値引き効果でリピート販売が活況なゲームソフト

     ゲーム業界に関しては、前回のコラムで指摘したような極端な悲観論は後退し、株価の調整も一巡した印象を受ける。任天堂 <7974> の第1四半期決算が堅調だったことに加え、カプコン <9697> 、バンダイナムコホールディングス <7832> 、スクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> 、コーエーテクモホールディングス <3635> も揃って好決算を発表したことが契機となったようだ。各社は自社タイトルの魅力を要因に挙げるが、リピート(旧作)販売の好調を踏まえると、セール施策による販売促進効果が大きかったと分析できる。

     以前にも触れたとおり、「支払う実額」そのものよりも、「価格変更前後の差額」から得られる損得感を消費者は重視する傾向がある。行動経済学では「取引効用(想定価格に対して安く買えたという心理的納得感)」と言われる。ゲームソフトのような無形資産では、わずかな値下げであっても「お得感」が強く認識され、購買意欲が刺激されやすい。特に低価格帯でのセールは値引き率が高く映るため、取引効用をより強く消費者が享受した結果と言える。セール戦略が今後も各社の業績に大きな影響を与えそうである。

    ●過度な悲観は後退も、任天堂を取り巻く3つの懸念

     任天堂に対する極端な悲観論は薄れたものの、株価は依然として「Nintendo Switch 2(Switch2)」の期待を織り込む前の水準にとどまっている。今後の主な懸念材料は、AI需要に伴う半導体不足、部材高騰による採算悪化、「Switch2」向けゲームソフトの販売動向の3点である。ソニーグループ <6758> の「プレイステーション(PS)5」は、ビジネスサイクルとして販売台数の拡大を追求する段階を過ぎ、次世代機のロードマップも見えているため、ハードの供給制約は市場で過度に問題視されていない。しかし任天堂の場合は大きな懸念になる。

     ハイパースケーラーによる買い占めでDRAM等の汎用半導体の供給が逼迫すれば、キヤノン <7751> などの他業種と同様に調達難に直面しかねない。ゲーム専用機は発売後3年間で普及台数を最大化させるビジネスモデルであるため、初動で十分な生産台数を確保できなければ、"「Switch」超え"のシナリオ達成は難しくなる。また、調達コストについては、現時点では落ち着いているものの、インフレと部材高が続けば、ハードの採算悪化や本体価格への転嫁を迫られる。価格設定が高すぎれば、消費者心理を冷え込ませるリスクがある。

     そしてもう一つの懸念、ソフトの販売動向について述べる。筆者が「ストレージコスト」と呼ぶ問題であり、後方互換性を維持した場合、前世代のソフトが本体ストレージを占有し続け、結果として新作タイトルの購入意欲を減退させるのではないかという危惧である。任天堂は「不要なソフトは削除でき、セーブデータ(ゲームの進行状況やプレイヤーの記録を保存したデータ)はクラウド等に残る」と説明するが、ユーザーからすればここに大きな矛盾がある。

     そもそもユーザーは思い入れのあるゲームを「不要なソフト」と呼ばれることに心理的な拒否感を感じるし、削除することにはなおさら抵抗が伴う。いざ、またプレイしようとすれば、ソフトの再ダウンロードには相応の時間を要する点もハードルとなる。鉄道における「乗り換え抵抗」、つまり所要時間が短くても、乗り換え回数が多いルートは敬遠されるという心理と同様に、デジタル体験におけるわずかなストレスもゲーム機購買の阻害要因になり得る。

     これはソニーグループに対しても同様なのだが、任天堂のこうした姿勢から筆者が感じるのは、「ゲームソフトそのものは簡単に消せるからストレージは少なくても良い」という思想である。しかし、これは必ずしも合理的ではないユーザーの心理と一致していないと思う。任天堂やソニーグループには、こうしたユーザーの行動心理への理解に基づいたゲームハード・ソフトの深化を期待したい。ユーザー心理への細やかな配慮こそが、中長期的なプラットフォーム価値と企業価値の向上に直結するはずである。

    ●アニメの普及で世界を目指す映画会社にも注目

     最後に映画セクターにも触れておきたい。東宝 <9602>や東映 <9605> 、東映アニメーション <4816> などの動向に接して、2017年ごろから筆者が見立てていた「アニメが世界的なメインカルチャーとして普及する」という考えは正しかったと確信を深めている。

     東宝、東映グループとも世界市場で通用する強力なアニメIP(知的財産)に加え、「ゴジラ」や「仮面ライダー」といった有力な特撮コンテンツを保有している。政府によるコンテンツ輸出支援の後押しもあり、中長期的な投資妙味は高い。東宝の27年2月期第1四半期(26年3-5月期)決算は、会計処理の影響で大幅減益となったものの、夏季には『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』の大ヒットなど、本業である映画配給事業の好調ぶりが伝えられている。

     東映グループにおいても、テレビアニメ『名探偵プリキュア!』や新シリーズが始まった『仮面ライダー』が堅調に推移している。日本のコンテンツ産業が世界規模で飛躍を遂げるなか、投資家にとっても魅力的な投資機会が広がっていると言えよう。今後のさらなる成長に期待したい。

    【著者】
    安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
    東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 

    1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、26年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

    株探ニュース