2025年3月19日 17時41分
メジャーSQ週を通過した日本株市場を取り巻く環境【フィリップ証券】
毎月第2金曜日は株価指数の先物とオプションの期近物の最終決済に関する特別清算値(SQ値)の算出日「SQ日」であり、その中でも3の倍数の月のSQ日は想定元本が日経平均株価の1000倍となるラージ先物を含む「メジャーSQ」と呼ばれる。投資家はSQ日の前日までに建て玉(ぎょく)を期先物へ乗り換える(ロールオーバー)か手仕舞うか選択を迫られるため、メジャーSQ週近辺は相場の転換点となりやすい側面がある。日経平均株価は3/11、米トランプ大統領が米国景気後退入りの可能性を否定しなかったことや米国の関税を巡る不透明感から一時3万6000円まで下落したが、その後反転上昇。3/14のメジャーSQ日まで買いが続いている。
その背景として、約260兆円の公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、5年ごとの資産構成の見直しで現行の基本ポートフォリオを維持する方針を決めたことは大きな要因だろう。国内金利上昇、および農林中金が外国債券の運用失敗で巨額損失を計上したこともあり、国内債の割合上昇、外国債の割合低下も十分に想定された。仮にそうなれば、為替の円高ドル安や外国債の買い手減少を通じた世界の金融システムへの悪影響を及ぼしかねないとして警戒されていたが、海外投資家は今回の方針維持を好感するだろう。
海外要因では、①トランプ関税、②ウクライナ停戦協議、③ドイツの「債務ブレーキ」緩和・財政方針転換問題、④中国の産業政策が注目点だろう。トランプ関税では、トランプ政権の強気な要求が交渉の駆け引き材料と捉えられがちだったが、むしろ「選挙公約の忠実な実行」と捉え直す必要があるだろう。ウクライナ問題では、「即時かつ暫定的な30日の停戦」という米国の提案に対するロシアのプーチン大統領の対応が注目される新局面に入った。また、ドイツの債務ブレーキ改革が実現すれば、欧州比率の高い低PBR(株価純資産倍率)銘柄を中心に物色の広がりが見込まれる。中国全人代の政治活動報告における産業政策の中でヒト型ロボットなどは、日本企業にも活躍する余地があるように思われる。
3/19にJX金属<5016>が東証プライム市場に新規上場する。ENEOSホールディングス<5020>の子会社で公開価格ベースの時価総額は7610億円。同社は半導体製造時に金属薄膜を形成する材料である「スパッタリングターゲット」で世界シェア約6割を占める。日本企業の中には半導体製造に関連した素材や材料、およびそれに伴う技術で高い世界シェアを持つものの、低PBRのまま放置されている企業が多数ある。化学素材メーカーのADEKA<4401>や農薬メーカーのクミアイ化学工業<4996>なども、生成AI(人工知能)関連の需要拡大の恩恵を受けている。
■トライアルの西友買収で業界激動~九州から全国制覇へ、漁夫の利企業も
トライアルホールディングス<141A>が3/5、総資産額を超える3800億円で西友の買収を発表。西友はかつてセゾングループ中核企業だったが、約20年前に米ウォルマート<WMT>傘下入り。ウォルマートは日本攻略に苦戦し、2021年に西友株式の多くを米ファンドKKR<KKR>に売り、撤退した。
トライアルと西友は、出店エリアや店舗の立地が競合せず、補完関係にある。競争力のある西友のプライベートブランド(PB)は継続し、トライアルの店舗でも取り扱う方針だ。人口減少が加速する日本市場で、トライアルにとって首都圏を攻略する優先順位は高い。また、トライアルは昨年1月よりNEC<6701>と顔認証分野で協業を開始。顔認証は共通IDとして、多様なサービスをシームレスにつなぐリテールテックの鍵となっている。
参考銘柄
伊藤忠食品<2692>
・1886年に松下善四郎商店を大阪市で創業。1982年に現・親会社の伊藤忠商事<8001>と資本・業務提携。食料品卸売業として酒類・食品の卸売および商品の保管・運送などの関連事業を行う。
・1/31発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比3.8%増の5432億円、営業利益が同12.1%増の91億円。重点分野である「情報」、「商品開発」、「物流」への取り組み強化のもと、スーパーマーケットやドラッグストア向け取引の拡大、洋酒・飲料の伸長が増収に貢献。経費削減も奏功。
・2/28に通期会社計画を上方修正。持分法投資利益増を受けて経常利益を前期比21.5%増の112億円(従来計画100億円)、年間配当を同30円増配の140円(同120円)とした。売上高は同4.1%増の7000億円で据え置いた。冷凍食品の需要拡大が続く中、液体急速凍結技術を活用した「凍眠」シリーズが堅調に推移。大ヒット中の「凍眠フルーツ」のほか、「凍眠凍結酒」、冷凍スイーツ他も展開。
三井化学<4183>
・1997年に旧・三井化学工業が三井東圧化学と合併。ライフ&ヘルスケアソリューション、モビリティソリューション、ICTソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズを主な事業セグメントとする。
・2/4発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上収益が前期比5.0%増の1兆3388億円、営業利益から非経常的項目を除いたコア営業利益が同4.7%増の757億円。ナフサ等原料価格上昇に伴う販売価格上昇と為替が増収に寄与。原料価格変動に伴う在庫評価益増による交易条件改善が増益に寄与。
・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比4.3%増の1兆8250億円(従来計画1兆7700億円)とした。コア営業利益は同9.1%増の1050億円、年間配当は同10円増配の150円で従来計画から据え置いた。同社はオランダ<ASML>の次世代露光装置に対応した次世代「ペリクル」(半導体回路の原版を保護する薄い膜材料)を量産する製造ラインを年内完成予定。同社はペリクルで世界シェア首位。
クミアイ化学工業<4996>
・1928年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で創業。全農を通じた国内販売及び同社グループによる海外販売の「農薬・農業関連事業」、および「化成品事業」を主に営む。海外売上比率が6割弱。
・3/7発表の2025/10期1Q(11-2月)は、売上高が前年同期比10.4%増の433億円、営業利益が同36.3%増の40億円。売上比率80%の農薬・農業関連は売上高が8%増、営業利益が28%増。化成品は生成AI(人工知能)サーバー向け電子材料が好調に推移し10%増収、営業利益が112%増。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.1%減の1593億円、営業利益が同8.4%減の104億円、年間配当が同横ばいの34円。売上比率約4割の抵抗性雑草の除草剤「アクシーブ」は米国・アルゼンチン向けが出荷減の一方、豪州・ブラジルで出荷が増加に転じた。機械強度と高耐熱性に寄与するビスマレイミド類、および電子デバイスの原料として活用されるアミン類は、AI半導体需要増が追い風。
NEC<6701>
・1899年創業の官公庁・企業向けITサービス大手。ITサービス(パブリック、エンタープライズ、デジタルプラットフォームなど)、社会インフラ(テレコムサービス、航空宇宙・国家安全)の2事業セグメントを主に営む。
・1/30発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上収益が前年同期比3.0%減の2兆3218億円、本源的事業業績を測る調整後営業利益が同54.9%増の1502億円。売上比率55%のITサービスは、政府が進める地方自治体システム標準化の需要増を受けて同5%増収、調整後営業利益も24%増だった。
・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比1.9%減の3兆4100億円(従来計画3兆3700億円)、調整後営業利益を同16.3%増の2600億円(同2550億円)とした。年間配当は同20円増配の140円と従来計画を据え置いた。同社は米国立標準技術研究所(NIST)実施の顔認証技術ベンチマークテストで世界1位を獲得(24年2月)。1200万人分の静止画を用いた「1:N認証」で認証エラー率0.12%。
※執筆日 2025年3月14日
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
その背景として、約260兆円の公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、5年ごとの資産構成の見直しで現行の基本ポートフォリオを維持する方針を決めたことは大きな要因だろう。国内金利上昇、および農林中金が外国債券の運用失敗で巨額損失を計上したこともあり、国内債の割合上昇、外国債の割合低下も十分に想定された。仮にそうなれば、為替の円高ドル安や外国債の買い手減少を通じた世界の金融システムへの悪影響を及ぼしかねないとして警戒されていたが、海外投資家は今回の方針維持を好感するだろう。
海外要因では、①トランプ関税、②ウクライナ停戦協議、③ドイツの「債務ブレーキ」緩和・財政方針転換問題、④中国の産業政策が注目点だろう。トランプ関税では、トランプ政権の強気な要求が交渉の駆け引き材料と捉えられがちだったが、むしろ「選挙公約の忠実な実行」と捉え直す必要があるだろう。ウクライナ問題では、「即時かつ暫定的な30日の停戦」という米国の提案に対するロシアのプーチン大統領の対応が注目される新局面に入った。また、ドイツの債務ブレーキ改革が実現すれば、欧州比率の高い低PBR(株価純資産倍率)銘柄を中心に物色の広がりが見込まれる。中国全人代の政治活動報告における産業政策の中でヒト型ロボットなどは、日本企業にも活躍する余地があるように思われる。
3/19にJX金属<5016>が東証プライム市場に新規上場する。ENEOSホールディングス<5020>の子会社で公開価格ベースの時価総額は7610億円。同社は半導体製造時に金属薄膜を形成する材料である「スパッタリングターゲット」で世界シェア約6割を占める。日本企業の中には半導体製造に関連した素材や材料、およびそれに伴う技術で高い世界シェアを持つものの、低PBRのまま放置されている企業が多数ある。化学素材メーカーのADEKA<4401>や農薬メーカーのクミアイ化学工業<4996>なども、生成AI(人工知能)関連の需要拡大の恩恵を受けている。
■トライアルの西友買収で業界激動~九州から全国制覇へ、漁夫の利企業も
トライアルホールディングス<141A>が3/5、総資産額を超える3800億円で西友の買収を発表。西友はかつてセゾングループ中核企業だったが、約20年前に米ウォルマート<WMT>傘下入り。ウォルマートは日本攻略に苦戦し、2021年に西友株式の多くを米ファンドKKR<KKR>に売り、撤退した。
トライアルと西友は、出店エリアや店舗の立地が競合せず、補完関係にある。競争力のある西友のプライベートブランド(PB)は継続し、トライアルの店舗でも取り扱う方針だ。人口減少が加速する日本市場で、トライアルにとって首都圏を攻略する優先順位は高い。また、トライアルは昨年1月よりNEC<6701>と顔認証分野で協業を開始。顔認証は共通IDとして、多様なサービスをシームレスにつなぐリテールテックの鍵となっている。

参考銘柄
伊藤忠食品<2692>
・1886年に松下善四郎商店を大阪市で創業。1982年に現・親会社の伊藤忠商事<8001>と資本・業務提携。食料品卸売業として酒類・食品の卸売および商品の保管・運送などの関連事業を行う。
・1/31発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比3.8%増の5432億円、営業利益が同12.1%増の91億円。重点分野である「情報」、「商品開発」、「物流」への取り組み強化のもと、スーパーマーケットやドラッグストア向け取引の拡大、洋酒・飲料の伸長が増収に貢献。経費削減も奏功。
・2/28に通期会社計画を上方修正。持分法投資利益増を受けて経常利益を前期比21.5%増の112億円(従来計画100億円)、年間配当を同30円増配の140円(同120円)とした。売上高は同4.1%増の7000億円で据え置いた。冷凍食品の需要拡大が続く中、液体急速凍結技術を活用した「凍眠」シリーズが堅調に推移。大ヒット中の「凍眠フルーツ」のほか、「凍眠凍結酒」、冷凍スイーツ他も展開。
三井化学<4183>
・1997年に旧・三井化学工業が三井東圧化学と合併。ライフ&ヘルスケアソリューション、モビリティソリューション、ICTソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズを主な事業セグメントとする。
・2/4発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上収益が前期比5.0%増の1兆3388億円、営業利益から非経常的項目を除いたコア営業利益が同4.7%増の757億円。ナフサ等原料価格上昇に伴う販売価格上昇と為替が増収に寄与。原料価格変動に伴う在庫評価益増による交易条件改善が増益に寄与。
・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比4.3%増の1兆8250億円(従来計画1兆7700億円)とした。コア営業利益は同9.1%増の1050億円、年間配当は同10円増配の150円で従来計画から据え置いた。同社はオランダ<ASML>の次世代露光装置に対応した次世代「ペリクル」(半導体回路の原版を保護する薄い膜材料)を量産する製造ラインを年内完成予定。同社はペリクルで世界シェア首位。
クミアイ化学工業<4996>
・1928年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で創業。全農を通じた国内販売及び同社グループによる海外販売の「農薬・農業関連事業」、および「化成品事業」を主に営む。海外売上比率が6割弱。
・3/7発表の2025/10期1Q(11-2月)は、売上高が前年同期比10.4%増の433億円、営業利益が同36.3%増の40億円。売上比率80%の農薬・農業関連は売上高が8%増、営業利益が28%増。化成品は生成AI(人工知能)サーバー向け電子材料が好調に推移し10%増収、営業利益が112%増。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.1%減の1593億円、営業利益が同8.4%減の104億円、年間配当が同横ばいの34円。売上比率約4割の抵抗性雑草の除草剤「アクシーブ」は米国・アルゼンチン向けが出荷減の一方、豪州・ブラジルで出荷が増加に転じた。機械強度と高耐熱性に寄与するビスマレイミド類、および電子デバイスの原料として活用されるアミン類は、AI半導体需要増が追い風。
NEC<6701>
・1899年創業の官公庁・企業向けITサービス大手。ITサービス(パブリック、エンタープライズ、デジタルプラットフォームなど)、社会インフラ(テレコムサービス、航空宇宙・国家安全)の2事業セグメントを主に営む。
・1/30発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上収益が前年同期比3.0%減の2兆3218億円、本源的事業業績を測る調整後営業利益が同54.9%増の1502億円。売上比率55%のITサービスは、政府が進める地方自治体システム標準化の需要増を受けて同5%増収、調整後営業利益も24%増だった。
・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比1.9%減の3兆4100億円(従来計画3兆3700億円)、調整後営業利益を同16.3%増の2600億円(同2550億円)とした。年間配当は同20円増配の140円と従来計画を据え置いた。同社は米国立標準技術研究所(NIST)実施の顔認証技術ベンチマークテストで世界1位を獲得(24年2月)。1200万人分の静止画を用いた「1:N認証」で認証エラー率0.12%。
※執筆日 2025年3月14日
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当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
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